「――――結局、犯人らしきポケモンは捕まらなかったけど、特になにもなかったの。その後はヴィエルの勧めもあって、ここの城でメイドをすることになった、というわけ」
「そういった事情が……」
「ふふ〜。ほらぁ、ただのなれ初めの話、本当に長かったでしょー?」
「ええ、確かに」

目の前で頬を赤らめながらにこにことほほ笑むフレイヤに、ロキは感心とも呆れともいえるため息をついた。

「……――というか、まさか本当に衝撃的な物だったとは思いませんでしたけど」
「んー、何か言ったかしらぁ?」
「いえ、メイド長のほうが先に惚れたのは意外だなー、と」

酒瓶が幾つも転がり、複数のグラスが並ぶ食堂の机を挟んで、ロキとフレイヤは座っている。酔いが回りすぎて呂律も怪しいフレイヤは、彼の言葉にふわふわとした様子で笑う。

「だってぇ、物語で見るような展開だったのよぉ……惚れないわけがないじゃないのぉ、ふふふっ」
「なるほど」

何に納得したかロキ自身も分からないがとりあえず頷いておく。そして、お酒の入ったグラスを取ろうとしていた彼女の白い手に、彼は水の入ったグラスを押し付ける。フレイヤは、少しだけ唇を尖らせた。

「えぇー……まだいいじゃないのぉ、ロキ」
「駄目ですよ、メイド長。飲みすぎは体に毒です。少しクールダウンしてくださいね」
「そう? ロキがそういうなら……まぁ、そうなのかしら……」

ぼんやりとした瞳で肩をすくめた彼女は、手渡された水を一気に飲み干す。空になったグラスを脇にどけて、ふと、少しだけ呂律の戻ったフレイヤが首をかしげる。

「それにしてもロキ、なんか楽しそうね」
「おや、そうですか?」
「えぇ……なれ初め話なんて、ただののろけ話だと思うけど……何か、気になったことでもあったの?」

言われて、ロキは自分の口元に手を当てる。僅かに頬が緩んでいるのを感じて、彼は首を縦に振った。

「そうですね。個人的に、とても興味深いのがありましたので」
「興味深い……?」
「はい。――ところでフレイヤ様、そろそろ眠くありませんか?」

ロキの言葉に、フレイヤの頭が大きく舟をこぐ。

「そう…………ね……でも……これ……どこか、で……」

前のめりに倒れこんだ彼女が頭をぶつけそうになったところを、ロキが手を差し出しすことで回避。そして、ゆっくりと彼女の頭を机の上に置いてやると、少しもしない内に静かな寝息がこぼれ始めた。

「やれやれ。興味本位で隊長とメイド長のなれ初めを聞いてみましたが……――思わぬ話が聞けましたね、ヨノワール」

何時の間にか毛布を二枚ほど持ってきたらしい大きな腹を持つゴーストポケモンを、ロキは振り返る。言葉を発すことのないヨノワールは、主人の言葉に一度頷く。それから、もっていた毛布を、幸せそうな寝顔のフレイヤの肩と膝に、丁寧にかけ始める。

「あの"伯父"が一体何をしていたのかと思えば……全く、あの人はどこに居ても変わらない」

左の顔を覆う白い仮面に片手を添えて、ロキはため息をついた。幼少期の自分や妹を見てくれていた彼ではあるが、その仕事ぶりを見る機会はあまりなかった。医者としてはそれなりの技術を持っていたのは知っていたし、城の常勤医師であったことも知っている。
ただ、その伯父と近い場所にいた人からの話を伺うことはなかった。それは、伯父の"亡くなり方"の所為で彼の話を伺うことが出来なかったというのもある。そしてまた、ロキ自身、自分の身内の話というのは、あまり知られたくないことでもある。
だから、こういった機会で伯父の話を聞けるとは思わなかった。そして彼は――――やはりどこにいても、馬鹿で素直で、変なところにつぼってはよく笑う、技術以外の面ではからっきし駄目人間の典型例だったようだ。

「きっと今頃は、黄泉の国で私の滑稽具合を笑っているんですかね――――ケイジさんは」

メイド長が注いでくれた赤ワインを呷り、ロキは皮肉気に口元を歪めた。



物語の世界の道化達へ



(世界を動かす要の存在が、いまだ、眠りについたままであることを彼らは知らない。)



111112/明日でお誕生日迎えるってときに何書き終えたんですかアンタはー!!!
ってことで(?)前回、キングダム地方の国王と王妃のなれ初めを書いたら、その勢いで騎士団長とメイド長のなれ初めも書きたくなった結果書いてしまいましたいーづかです。
ちなみに今回のお話、いつもの読み切り中編(短編っていうと詐欺っぽいので)は50KB前後なんですが……えー、今回のこの話は大体120KBとなっております。 ど  う  し  て  こ  う  な  っ  た 。

はい本編について。
まずは今回登場した悪役……を操っていた本当の悪役は、一応、キングダムの話を書くときのラスボスみたいな人です。他に詳しい説明が出てこないのですが……とりあえず、ダークライというポケモンは、このキングダム地方には二匹しか存在しない、ということだけ呟いておきます。つまり、もう一体持ってる人がいるのよ!((

一方で初登場の常勤医師のケイジさん。最後に述べたとおり、ロキの伯父に当たるかたなんですが、基本的にその接点を知っている人は国王以外はほぼなし(ゼロの場合は書類を見てるのと、前参謀長官が人選の際に告げてるから)。そしてお分かりの通り、ロキが参謀長官として動いている現在、彼はこの世にいません。
ファレンハイトに関しても、前回よりもそれなりに出番がありましたし、参謀長官らしい?ことをしてるなという。そしてオーディンとの仲はすっごいよかったのです。今でこそ死ぬほど険悪なのは、彼が参謀長官を退かざるを得ない事態になったことに起因しているんですが。……もういっそ簡単に説明したい気もするけど、これもまた気が向いたらのんびりと書きたいなー。

そして今回の主役である、オーディンとフレイヤについてちょっと捕捉を。

フレイヤがジェライの行き過ぎた愛情表現から逃げようとしなかったのは、多分、最初の内は接し方が酷く優しかったからだという裏話。多分ジェライとしては、物として扱言う意味もあって最初は比較的"当たり障りのない"接し方をしていたけど、段々とフレイヤに惹かれてしまい、更には彼自身が持つ支配欲というか独占欲がダークライによって引き立てられたこともあり、彼女に対して、必要以上の束縛をするようになった感じ。
その中心にあるのが愛情に飢えている、ということを何となく感じ取ったフレイヤは、最初の頃は同情心で彼の元から逃げないという選択肢を取ったという。まぁ、結局はだんだんその独占欲が強すぎて脅迫的なものになってしまい、フレイヤもそれから逃げれるように感じなくなってしまった(同情心+脅迫観念で)。結果として、フレイヤは最後までジェライという男性には同情心しか持てなかったわけで。

一方でオーディンさんは、この頃から実は少し……ほんの少しヴィエルのことが気になっていたんだけど、まぁ当然ながら親友の彼女だし、そもそも彼自身無自覚なものであって(後に騎士のごたごたがあって、あぁあれは初恋だったんだろうなーってぼんやり自覚する程度)とりあえずヴィエルには頭が上がらない場合も少しずつ。
ちなみに、ヴィエルがことあるごとにフレイヤの件でオーディンに突っかかってくるのは、少なからずこの最初の事件が原因(後は単にシスコンなだけ)。結局、いまだにオーディンが彼女の足を折ってしまったと思ってるけど、彼は彼で訂正するの面倒くせーってことでしてないという。ちょっとは誤解を解く努力をしろと。


後、今回は前回やここ最近書いたものの中でも、結構独白を大めに書いてると思います。
まぁ読んでいる作品の影響っていうのもあるのですが、視点が結構ぶらぶらーだったりとかで、三人称のはずなのに途中でいきなりいくつか一人称(基本的にフレイヤ)視点になったり、改行が無駄に多くて同じ言い回し二回使ってしまったりしてて、途中描写に疲れたと思しき辺りは会話オンリーなシーンばっかりだったりとかで、えっと、その……も、もう少し読みやすいものを書けるように頑張ります。

と、以上のような言い訳を書いてあとがき終了。やっぱり相変わらずキングダム地方の人たちは面倒くさいね! 
とりあえずオーディン爆発しやがれちきしょう((
しかしやっぱりこんだけ大量に話を書くと、しばらくは手が痛くて無理かな……もうちょっと読みやすい短いものか、連載物にいい加減に手を付けたいところです。


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