紅色の硬質な刃を振りまわすと、舞っていた木の葉が二別れになる。意識を研ぎ澄ませ、突きだした硬質な尖端で空気を貫く。すぐさま刃を引いて後退すると同時に空中へ飛び上がり、変形させた銃でもって太い木の幹にエアルを込めた銃弾を打ち込む。足裏がはっきりとした地面の感触を覚えた時には、既に彼女は詠唱を口にしていた。
「燃え盛る艶やかなる炎、イラプション!」
地中が盛り上がり、具現化した魔術の炎が吹きあがる。舞っていた木の葉を尽く焼き焦がす。残り火が、湿った地面に触れるだけで沈静化していく。周辺が、訓練を始める前と変わらぬ静けさを帯びる。
やがて、溜めこんでいた息をそうっと吐き出し、ゴーシュは自分の手にしている剣と同じ色の髪を掻きあげた。鳥のさえずりが耳障りよく届き、木の枝葉が作り上げる天蓋からこぼれる日の光は、汗一つかいた様子を見せない彼女を優しく包み込む。
湿気をそれなりに含んだ森の中に流れる風の心地よさもあいまって、ゴーシュは目を細めると、そのまま自然と唇を緩め、、
「ゴーシュ、抜け駆けはノンノン、でーす」
「ノンノンなのだぉー」
ガサガサと草むらが動く音と同時に声。
肩を思いっきり震わせて(幸いにも声は漏れなかった)背後を振り返ると、頭に鉢巻きの様なものを巻き、そこに葉っぱ付きの木の枝を二本差しているよく見なれた二人の姿があった。
「イエガー様、ドロワット……!? 何で、ここに」
「貴方が努力家なのは、ミーとドロワットがアンダスタンド。バーッド、それでランチを抜くのは、体にグッドではないのでーす」
服についている葉っぱを払いつつ、イエガーがひょいと布の掛ったバスケットを取り出して見せる。布の隙間から見えたのは、綺麗に詰め込まれたサンドイウィッチとポット。それに、ゴーシュが驚いた表情でイエガーを見上げようとし、
「ううっ、ゴーシュちゃんのばかぁー!」
ガバッと抱きついてきたドロワットに行動が阻害される。されるがままというのがぴったりなぐらいにもみくちゃに締め付けられて、挙句に頬を擦り寄せられる。
「ど、ドロワット……!」
「ゴーシュちゃんだけ強くなっちゃったらやんなのん! だから、練習するなら今度からちゃんと言って言って!」
「……ドロワット、私はお前にちゃんと言ったぞ。朝の練習するからって。でも、叩いても起きなかったのは分かってるのか?」
「…………てへっ☆なのだわん」
両人差し指を頬に当てて小首を可愛く傾げる相棒に、深々とため息を吐き出す。傍で様子を眺めていたイエガーがくすりとほほ笑むと、ひょいとどこからともなく取り出したシートを広げる。
「では、ランチタイムなのです。トゥデイは、ミーとドロワットでクッキングしましたよ」
「有難う御座います! あ……ですがイエガー様、時間とかは……」
その言葉に、イエガーは肩をすくめると、彼女の赤毛を優しく撫でる。
「そこはユーが気にしなくてノットです。フリータイムは誰にでもニードですよ」
「エブリワン、フリー!」
元気よく手をあげると同時に、バスケットからいそいそと取り出したサンドウィッチに目を輝かせるドロワット。
それに肩をすくめつつも、とりだしたポットの紅茶を携帯用の小さなカップに注ぎ、手渡すしてくるゴーシュ。
そんな目の前で楽しそうな二人の少女の姿を眺めつつ、イエガーは受け取った紅茶に口をつけ、軽く目を細めるのだった。
ティーブレイク
(「チョコとイチゴジャムとハムのサンドウィッチ……これ、ドロワットが作ったものだな」
「あれあれ、分かっちゃう?」
「ドロワットはパーソナリティなクッキングがベターなのですよ」)
081011/単純に試し書き。そりゃまぁこの三人ってずっと忙しいかもしれないけど、ユーリ達と関わる前くらいとかなら、割と息抜きとかあったとしてもいいかなー、という発想より。
とはいえ、もはやドロワットとイエガーの口調と性格を掴んでないのがばればれです。ぎゃー、口調が壊滅してるわー……orz
そして書いててふと思った事というと、ユーリが「個人とギルドは別物」という点を指摘することがあるのですが、これってある意味伏線だったんだなぁというそんな話。
……ちなみに魔狩りの剣は書いてみると意外とアホな具合になりそうな気がして怖くて書けません(ぇ)