飛び上がった剣を空中で掴むと同時に、目下で無謀な状態となっている魔物へ技を叩きこむ。水玉のある桃色の傘を広げているような魔物が、鳴き声のような悲鳴のようなどっちともつかない声音と共に破裂。足もとから地に降り立つ感触を感じる。一陣の颶風となって僅かな距離を詰めると同時に、二体目を切り上げる。
振り返り様に回した刀が、背後から襲ってきた魔物を吹き飛ばす。すぐ傍を駆け抜けた相棒が銜えていた小刀を一閃させると同時に、自らの体を丸めて突撃。破裂音を確認する間もなく、もう一度振り返る。ほんの数メートル先では、体を僅かに揺らめかせて無防備な状態の敵を、連れの少女が放った素早い突きでもって捉え、吹き飛ばしたところであった。
そうして、吹き抜ける風が戦闘終了を告げるかのように、耳元でびょうっと音をたてた。


少女が自らの手に持つ帯を複雑な法則で動かすと同時に、彼女の足元に様々な記号を重ね合わせた陣が出現し、拡大。同時に、複数の魔物達の足元に同様の陣が出現し、彼らの動きをほんの僅かに止める。瞬間、吹きあがる光の槍が彼らの体を一気に貫くが、完全に動きを止めていなかった獣たちが上空へと逃げる。
しかし、その動きを読んでいたかのように、一方の女性が自らの身長より僅かに長い槍を深々と突き刺し、もう片方の男性が手のひらに収まる程度の複数の小刀で無防備な体に数多くの裂傷を切り刻む。そのまま魔物達が落下の寸前で破裂した。


少年が自らの体よりも一回りほど大きなハンマーを振りまわす。しかし反動を完全に押し切れていないのか、敵を吹き飛ばしつつも数度ほどその場で体を回転させる。傍にいた青年が軽く呆れつつも、弾かれて転がった獣を切り上げる。急所を突かれたらしく、音と共に彼らの姿が次々と消え、最後に残ったのは彼らの落とした道具だけとなった。


少年がため息と共にその場に腰を下ろすと、少し離れたところで剣をふるっていた少女が、手に剣を携えたままぱたぱたと近寄り、治癒術を唱え始める。帯を手に引き戻した少女が、治癒を受けている少年にため息とともに嫌味を一つ言うと、彼は不服そうな顔で言い返す。
女性は自らの槍を振うことで血を軽く飛ばし、そんな様子に肩をすくめる。
治癒を終えたことを少女が少年に告げると、少年は立ちあがってゴーグルをいじり始めた少女に反論。そんな様子を横目に笑う少女へ、治癒の便乗しようとやってきた男性の姿を見つけ、青年はナップザックから滋養強壮剤を固めたグミを適当に顔にぶんなげる。
軽薄な笑みで不服そうに唇を曲げる男性に、青年が深いため息をつき、首を傾げる少女を指差す。精神世界から現実世界へ干渉する術技は相当量の精神力を必要としている上に、それを戦闘中でも数多く連発している少女の身を案じた指摘をすると、男性がにやりと笑い、青年の肩を小指でつつく。足元にいた相棒はキセルを揺らしながらあくびをしている。
青年は反応を見せるでもなく、ついと顔をそらす。その視線の先では、口論が激しくなったらしい二人が取っ組み合いの喧嘩を始めていた。治癒の少女が、男性の治癒を始めつつも困ったような表情をし、女性はというと呆れた様子で喧嘩を見守っており、男性は当然ながら動く様子を見せていない。
青年が軽く頭を掻きつつ、声を上げようとして――――ぐぅ、というはっきりとお腹が鳴る音に、その場の全員が、音のした方向へと目を向ける。
青年の後ろで男性の後ろ、治癒術を解除した少女が、恥ずかしそうな顔で口元とお腹に手をあてていた。
溜息をつく気力もなく彼が食事の提案をすると、準備を放棄する男性の声と科学者の少女の声が重なる。女性が困ったように笑う隣で、自ら手に持っていた剣を鞘にしまった少女と大型の武器を自分の手元に引き寄せた少年が手を挙げる。
とりあえず適当に料理の本を広げて材料を確認しつつ、青年は手伝う気力のある二人に、適当な指示を出すために頭を動かし始めた。


いつものそんな戦闘後光景


(料理の隠し味が彼がたっぷり込めた愛情だという話が出たのは、それから少ししてからのこと。)

080717/ちなみに描写の分け方は以下の通り。
青年→ユーリ
少女(治癒云々)→エステル
少年→カロル
少女(帯やゴーグル云々)→リタ
女性→ジュディス
男性→レイヴン
それにしても隠し味が愛情というのは本気で吹いた……(笑)