ユーリは軽く頭を抱えたかったが、如何せん戦闘中なのでそんな暇などない。わらわらと集まってきた雑魚と呼べそうな敵(目算で九体ほどだろう)の一匹を刀で薙ぎ払い、彼はふと、顔をあげて周辺を見渡した。
「イラプション」
「うわあっ、リタ! こっち、こっちに火が、うわっ、熱いってばー!!」
「いやぁ、おじさん、働くのは面倒くさいから後よろしくー」
「ユーリ、あの魔物を見てください! なんだか他の魔物とは違いますよ!」
リタがつまらなさそうな表情で唱えると、地中から吹きあがった業火によって魔物たちを確実に攻撃している。が、ついでに巻きあがった炎が僅かにカロルの服を燃やすか燃やさないかぎりぎりの距離で上がる。ユーリの真後ろでは、面倒くさそうに組んだ両腕を頭の後ろに回すレイヴンは涼しそうな表情をしており、近寄ってきたエステルは少し離れた所にいる毛色の違う獣を指して、興味深々と言った様子で彼の服を引っ張る。
溜息をつくと、傍にいたエステルが不思議そうな顔をする。とにかく興味と好奇心が疼かれている彼女の頭を軽く叩いてから、ユーリは呆れていた顔をあげた。
「リタ、いい加減に普通に技使っとけ。お前なら残りもすぐ全滅可能だろうが。カロル、布陣発動の際には詠唱者の声が途切れるから、そこら辺気をつけておけば問題ねぇよ。そうすりゃ余波を気にしないで済む。あと、さっきから全くもって働いていないアンタは、いい加減に動いて俺にばっかり戦闘を任せるな。今日の夕飯抜きでいいなら、そのまま突っ立ってても俺は一向にかまわねぇが。それから――エステル」
「あ、はい。何ですか?」
服を掴んだまま向き直ってくるエステルを見下ろす。自分よりも小さい彼女が、思った以上にちょこまかと動きながら素早い剣戟を放つ癖は分かっていた。それゆえに、毎度のことながら心配していたこと。ユーリは一呼吸分だけため息をつくと、彼女の肩を軽く掴み、
「……頼むから、戦闘中に些細なことで治癒術使うな。特に俺なんかは大して問題ない。あんなもん、ほっときゃ治る――」
「円月」
爆裂する音と落下音が同時に。
一瞬だけ二人の上を覆った二つの黒い影が消えうせる。音のほうに顔を向ければ、自らの操る槍をくるりと回し、地面に突き立てているジュディスと、地面で霧散し始めた敵へ投げた思しき小刀を拾い上げたレイヴンの姿があった。
「お守が大変なのは分かるけど、あまり自分を疎かにしちゃいけないわよ?」
「ほい、俺は働いたから、今日の夕飯は問題ないよな?」
肩をすくめるジュディスと、へらりと笑うレイヴンに、ユーリはエステルから手を離すと米神に軽く押さえた。そんな彼の様子に首をかしげつつも、エステルは二人の方へ向き直り、頭を下げる。
「ジュディ、レイヴン、有難う御座います」
「お礼はいいけど、あの子達のほうを手伝ってあげたら? そろそろ裂傷でも負ってそうよ」
「そうそう。説教はま、後で聞くことにしときなって。な?」
年上二人の言葉にこくこく頷く。そして「行ってきますね」と言うと同時に、エステルは剣と服を軽くひるがえし、ぱたぱたと戦場へ突っ込んでいく。それなりの年長者の部類であり、彼女を(ある意味で急きたてた)二人は軽く肩をすくめると、再び戦場へと走り向かう。
その場でとりあえず突っ立っていたユーリの口からは、もはやため息を漏らす気力も出なかった。片手から下げていた刀を構えなおすと、再び寄り集まってきた雑魚へとその切っ先を向ける。
「ったく……何で面倒な奴らばっかりなんだ、よ!」
悪態をついたところでどうしようもないと分かっていながら、とりあえず、彼は――忠告を中断していたために聞いていなかったか、治癒術を唱え始めた――エステルの方へ向かう魔物を追うために駈け出した。
いつものそんな戦闘光景
(結局エステルに首を傾げられ、ユーリはその日の夜もまた忠告をすることを忘れるのだった。)
080715/回復技を使うメンバーの詠唱を止めないように前キャラでもって敵を引き付けるor食い止める、というのはどこのシリーズにおけるバトルではおなじみなのでそこをちょろっと。もう少し戦闘らしい戦闘シーン書きたいんですが……うーん、"フェイタルストライク"とかはもうちょっと細かい話じゃないと駄目かなぁ。秘奥義シーンは絶対に何かのネタで使いたいところ。やっぱり通常では使えないという条件の話は聞いているので、どうせネタで話を出すのなら何かのタイミングで〜という感じもいいかなと。……何か戦闘馬鹿っぽい話ですみませんorz