ランさん宅から許可を頂きまして、MEMOの[330]より考え付いてみた物です。
戦いが終わると同時に駆け寄ってきた少女が、怪我をした場所に手をかざす。
同時に浮かびあがる布陣は今まで見てきた様々な布陣の中でも群を抜くくらいに複雑で、そもそもそういった布陣にこれといって興味のない彼でも全く見たことのないものであった。
気づけば魔物から受けた傷跡は塞がり――どころかその痕跡が一切伺えない。騎士団にいたころは使える人間がいなかったため、噂でしか聞いたことのなかった術だが、それを実際に間近でみることになるとは思ってもおらず、彼は感嘆の声を洩らす。
凄いな治癒術ってのは。というか、かすり傷だぞ、これ。
そう言うと、彼女は困ったような表情でこう言った。
大したことのない傷でも、怪我は怪我です。
私に出来るのは、こういうことくらいだけですから。
彼の相棒の傷もあっさりと治した彼女の返答に、彼は何となく違和感を覚えた。
仲間の人数が増えていけば自然と回復を主軸とする彼女の治癒術使用頻度は増えていく。その度に彼女は仲間達の間をちょこまかと動きまわっている。顔に僅かに浮かぶ疲労の具合も、自分でも意外なほどによく分かっていた。
今日もまた今日で、彼女は治癒術を唱えて――――襲ってきた魔物に気づくタイミングが遅れた。疾風のごとき速さで駆け寄った彼が、最後だったらしいその敵を切り上げる。少し離れたところで同じように先頭を終了した仲間達の姿も視界に収めて、彼は吐息をつく。
お前、人の事は良いから自分の具合を気にしろ。
首を傾げる少女の額を、とんっ、と突く。すると、彼女がその場にへたり込む。酷く驚いている少女に手を差し出しつつ、彼は呆れた表情を崩さない。
知らないうちに疲れが溜まってるんだよ、お前。
……見てるこっちが心配になるから、自分の心配もしろよ。
手を取った少女が、ぱちくりと瞬きする。彼が彼女の手を握ると、嬉しそうな笑みを浮かべて彼女が彼を見上げた。
はい!
もう一度違和感。しかしそれが何なのかと思う前に、なぜか思わず視線を斜め上に向ける。
明るい声に全員が何事かと振り返ってみれば、視線を少しだけずらしている青年と、笑顔の少女の姿があった。
付属効果
(単純な違和感。それは、彼女の笑顔を見るだけでも治癒されていることではあるが、それに気づくには、まだまだ時間がかかるようである。)
080720/これを書いたあと、ランさんがラスト部分を何と漫画で描いてくださいましたので、どうぞそちらもご覧頂ければと。ランさん、本当にありがとうございました!