陽光を反射する水面が跳ねる。水滴が宙を舞い、落下する音は少々重たさが交じる。
「あ、待って下さい、ラピード!」
さっさと突撃したラピードの後を追う様に、エステルが走る。ばしゃんと水しぶきが上がる音を聞きながら、ユーリは彼女から預かったタオルを持ったまま、ため息をついた。
「ユーリも一緒にどうですかー?」
「警護の意味ねぇだろ、それ」
(恐らく手を振っているであろう)エステルの言葉が背後から投げかけられるが、ユーリは振り返ることなく返答する。
ばしゃばしゃとラピードが水を掻きわける音がはっきりと響くほどに、その湖は決して大きいものではない。池というにはやや大きい、湖というにはかなり小さな場所である。
ぱしゃん、と何かが跳ねた音と共に、エステルの嬉しそうな声が上がる。振り返りたい衝動を抑えてユーリが尋ねようとする前に、興奮した様子の彼女の声が響く。
「ユーリ! 珍しい魚がいましたよ! とっても綺麗です!」
「食えないなら毒の可能性あるから触るの止めろよー」
適当にそんな返事をすると、少女が拗ねたのが空気を通して伝わる。
瞬間的に振り返りたくなる自分を自制して、ため息。そのまま、ばしゃばしゃというラピードの泳ぐ水音が響く。と。――――とぷん、とぷん、という何か二つほどの物が沈んだような音。
流石にユーリはその音で振り返り、エステルの姿がないことに自らの目を疑う。さらにはラピードの姿もない。水の跳ねる音はしない。静まり返る水面に、揺らぐ波紋の姿はうかがえない。
「エステル!?」
ユーリが反射的に叫ぶ、と当時に。
ざぱん、という水しぶきが上がり、きらきらと光を受けた水滴が吹き飛ぶ。
「あ、やっと振り返ってくれました!」
飛び出てきたエステルが、嬉しそうな表情で跳ねる魚を――尻尾が虹色をしている黄色の目をした変な魚ではあるが――手にしている。ラピードの口にも同じ魚が加えられているが、こちらはすでに生きている感じはしない。
何も言えずにいるユーリに首をかしげつつ、エステルが嬉しそうに言う。
「この魚、前に見たことあるのですが、食用としてあるんですよ。ただ、珍しくて高級食材として使われるんです―――あっ!」
彼女が手を上げようとした瞬間、魚は再び暴れ出したかと思うと、彼女の手をすり抜けて水の中へと戻って行ってしまう。
残念そうな表情をしているエステルの姿に、とりあえずは安堵のため息をついているのがばれないようにしつつ、ユーリは片手を振った。
「おい、いい加減に服着ないと風引く――――エステル」
「何ですか?」
「…………着替えの服はどうした?」
「えっと、タオルを巻いてた方が涼しいと思ったのですが、駄目ですか?」
上がるために近寄ってきたエステルが濡れた下着だけしか着ていない現実に気づいたのは、首を傾げながらも上がってきた彼女の姿を視界に収めた時だった。
水浴びの時は忘れずに
(「あれ? 何でエステルがユーリの上服着てるのって言うか、エステル、肌が見えていたぁっ!」
「ま、エステルが服持っていかなかったの考えたら当然よねぇ……」
「おおおおっ、エステルちゃん、遂にそんな胸が見える色気あるペアルック――――」
「ラピード、噛みついて来い」
「? 何か問題でもあるんですか?」
「いいんじゃないかしら?」
首を傾げるエステルに、ジュディスが肩をすくめた。)
(*前にとある絵茶にお邪魔した時に書いた物です。テーマは「水浴び」だったのですが、発売前に書いたということもあってエステルが天然ボケ扱いになってる……orz) |