【付き人の意味】

「国王陛下からの御届け物ですよ、腐れ外道騎士様。有難く頂戴しやがれませです」
「はいはい。相変わらず、ご結構なことで」
「あの、フラン様。最初の時から気になっていたのですが……なんで、リゼルティア様のメイドになれたんですか?」
「どういうことでしょうか」
「いやその……そ、そこまで口が悪いと普通、側近としては問題ありといいますか、人間の世界で言えば、そういう人は疎まれるのではないかと」
「つまり貴方は、私の言葉遣いでは、国王陛下にご迷惑がかかるのではと。そういう問いかけですか?」
「まぁ、ありていに言えばですけど」
「一応言っておきますが。私、普段は見える位置にはいませんよ」
「え? で、でも、最初の時は常に一緒だったような」
「貴方を指導というか監視する以上は、姿を見せる必要性がありましたので」
「あぁ。だからお前、あの時は一緒にいたのか」
「全くもって白々しいお言葉に聞こえますが?」
「さて、どうだか」
「監視って、ちゃんと疑ってたんですか!?」
「当然です。あのお方は、こういう時だけお人が悪いものです」
「何時もだろ」
「私、貴方様は空からの落下物で圧迫死してくれると、とても喜ばしい限りなんですがやっていただけませんでしょうかね、腐れ外道騎士様」
「アルーグさん煽ってどーするんですか……! それで結局、理由をお伺いしていないんですが」
「モミアゲ。人には知られたくない過去の一つや二つ、ましてや、女性というのは、秘密を抱えてこ魅力が増す存在。それを理解できないのであれば、暗殺して差し上げましょうか?」
「結局、言うの嫌なんですね。まぁ、殺されるのは正直勘弁…………あ」
「どうした」
「あのフラン様。ラズベリーって知っていますか?」
「いいえ。その名前に聞き覚えなどありません。それが何か?」
「その、ふと思い出しただけで、深い意図はないです。お忙しいところ、呼びとめてしまってすみません」
「……いいえ。私こそ、長話、失礼しました。ではこれで」

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「それで結局、ラズベリーがどうしたんだよ。ジャムにでもするのか?」
「普通はそう考えますよね、名前じゃなくて。……やっぱり」
「おら、したり顔してねぇで吐け」
「ちょっ、い、今から順を追って説明しますから! えーと……数年前ぐらい前まで、僕たち天魔は、色々な理由から、人間との交流をあまり行っていませんでした。そんな折、人間国側から僕たち天魔へ協定という形での接触をしてきたんです。僕はラプサン様から交渉の権限を任されて、その話に携わったのですが、折しも時期は他国戦争の真っ最中。更に言えば、リゼルティア様の周囲では常々暗殺騒ぎがあり、どこに間者が潜んでいるか全く検討のつかない、不安定な状態でした」
「よく知ってるな、そんなこと」
「人間の噂話っていうのは、天魔や精霊の唯一の情報源なんですよ。――さて、"ラズベリー"というのは、他国が放った優秀な間者の別名です。そいつは暗殺者としても有名でした。それが、リゼルティア様の命を狙っていると聞き、僕はチャンスだと思いました。『それを締め上げれば、命を助けた名目で、有利な条件を突き付けれる』と。ところが」
「失敗したばかりか、それを逆手に取られ、天魔は条件を飲むことになった訳か」
「知っているんですか!?」
「いんや。話の流れ的にそうだろ。ついでに言えば、あの頭可笑しい国王なら、殺すよりも飼いならしたほうがよっぽど面白い、とか考えてそうだし。はぁ、なるほど。それで、あのメイドが元暗殺者ってか?」
「まぁ、当人から聞いたわけではないですから、憶測の域は出ないですけど……。でも、それなら納得なんですよね。口が悪くても実力で物を言ってる訳ですから」
「その憶測が本当だとして……なんでアイツ、あんなに王様バカなんだよ」
「えーと……案外、理由の一つだったりして」

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「リゼルティア様、御届け物です。こちらに置いておきますので……あの、少々宜しいでしょうか」
「あぁ。それは構わないが、どうした?」
「私は――やはり、貴方の傍にいる上で、直すべきでしょうか。その」
「言っておくが、言葉遣いや態度のことならば、そのままでいてくれると助かる。飾られていると、かえって疑う性分だからな。それ以外ならば、内容いかんだが……」
「おっしゃられる通りですが……そう、ですか」
「なんだ、アルーグ辺りから嫌味でも言われたか?」
「概ね、そんなところです」
「気にするな、とは言わない。何事も、気に留めておくと後で役に立つことも多いからな。しかし、周りに流されるような形で矯正すると、帰って歪むだけだ。だから、たかが口調一つを直して、お前にとって得だと感じるものがなければ、私はお勧めしないがね。もっとも、女装などしている私が人のことを言えた義理ではないが」
「リゼルティア様は、それによってレディ様と話すことが出来る、という大切なことがございます故……! それに、民の声を聴くにも便利では御座いませんか……!」
「理由はどうあれ、他人が見れば変なことをしているに他ならないものさ。つまり、お前の口調や態度も、そういうものだ。さて、お前は今の口調をよく言うところの"正しいもの"にして、仕事はきちんとできるか?」
「……正直、耐えれるか微妙でございます」
「それは困る。という訳で、この話はおしまいだ。いいな」

(敬愛する主を見上げて、女はこくりと頷いた)