「う、だってその……、ポケモンレンタル出来るし、この前ザードと一緒に見に行ったらちょっと楽しそうだったし……えと、えっとー……」
目の前で必死の言い訳を考えるセイナの様子に、テイルが溜息をつく。
一週間ほど前から、彼女が自らの手持ちポケモンを一匹――つまりは、この競技場(バトルアリーナ)へと最初に連れてきた存在であるリザードンを連れてどこかへ行っていた。
そして、彼は今日になって彼女がどこへ足を運んでいたのかを知り、こうして現在彼女の前に立っているのである。
「セイナ」
「……は、はい!」
言い訳を考えていたセイナが反射的に顔を挙げる様子をみて、テイルが少しだけ目を細める。それに反応して、彼女がびくりと躯を震わせる。
よく見ればどこか泣きそうな表情に相対して、彼が軽く頬を掻くと、溜息混じりに問うた。
「――なんで、行く前に俺に言わなかったんだ。心配するだろうが」
その言葉に、セイナがきょとんとする。それから不思議そうな表情で首を傾げ、
「心配……するの、テイル?」
「当然だろうが。お前、自分がザード連れてるから平気だと思ったのか?」
「うん」
自信たっぷりに頷くセイナに、テイルが片手で頭を抱える。ついでに視界が下へ向けられたことで、自らのボールに納まってるヤミカラスと、セイナの腰元に下げられてあるボール内のリザードンが笑っていることに気づき、適当に叩いておく。
「ふえ、テイル、ザードとヤミラが何かしたの?」
「気にするな。それより」
言って、セイナを抱きしめる。ふっ、と彼女の躯が後方へと倒れ掛かりそうになり、しかしテイルがそれを静止させるような状態で強く腕の中に納める。
唐突な事にさらに呆然とする彼女を気にせず、彼は僅かに目を細め――耳元でぼそりと呟く。
「勝手に俺の道具入れから"ひかりのこな"を持っていったのはお前だな、セイナ?」
「うっ……ば、ばれた……?」
「それから"トレーナーカード"、クールに無理を言って登録してもらったそうだな」
「ひゃぁっ……! だ、だって、協会認定トレーナーとかじゃないと、参加も出来ないとかで……シャドウに言ったら『クールに甘えたら断らないよ』って……」
逐一、尋ねられるたびに何度か躯を震わせる。それが少々面白いのか、彼女の返答に僅かに熱を帯びた溜息をつくと、声を上げて顔を上げてくる。
何かを言いたくて何度か口を開閉させるも、何も言えずに顔を真っ赤にさせるセイナを見下ろし、テイルが肩を竦めると共に躯を離す。しかし、最初に彼女を抱きしめた時に絡めた手は離さない。
そして、彼女を引いて彼は競技場の方へと歩を進ませる。
「え、テイル……そっちはバトルの受付、だけど……?」
何度か瞬きをして、セイナが引っ張られる体勢のまま首を傾げる。
暫くの間、テイルは質問には答える事無く無言で競技場内の廊下を歩く。そうして、受付近くにたどり着くと、彼は足を止めて振り返る。
「セイナ、お前は丁度試合の連戦が止まったから出てきたんだったな?」
こくこくと首を縦に振ると、テイルが口元に僅かに笑み。そして、彼女の頭を空いている片手で軽く撫でると、笑みはそのままに紅色の瞳を細め、言った。
「なら、俺とのダブルバトルで連戦数を増やしてみるか。お前と俺で勝てない存在なんてのも早々いないだろ」
僅かに強く手を握ってやると、彼女の呆然とした顔が喜色満面の笑みになり、そして力強い返答が帰ってきた。
追加効果の恐ろしさ
(『だからってエメラルド達が来るまでに120連勝やる馬鹿組がどこにいるんだよ』
『ここにいるんだから仕方ないじゃないですか』)
ポイントの溜まったカードを前にして、二人で仲睦まじくしている様子に火竜と長狸が溜息をついた。)
070911/ちなみに呼びに行ったエメラルドはこいつらを見てワカナにも似たような提案をしてみたけど自分でセクハラ発言で自滅したようです。口は災いのもと、をいい加減覚えろ。