3.



「それで、シュウの容体は?」
「記憶がないどころか、精神は子供のころに戻ってる、とさ。やっぱり、例の事件に巻き込まれたと思っていいぜ」
「もう一つの反応があったかは確かめたのか?」
「……き、気絶してたみたいだから確認してなかったわ……」

エメラルドの説明にアゼルはため息をついた。この数日間起こっていた事件に、まさか知り合いが巻き込まれるなどと予想できるものだろうか。
寝不足気味な目をこすり、アゼルは紫色の瞳を細める。

「まぁいい。どうせ事例はほぼ一緒だ。恐らくあっちの"症状"は出てるとみて間違いない」
「そんな適当でいいのかよ」
「根拠と事例に基づいて論じているだけだ。それより、ポケモン達が見た犯人はどういう奴だったんだ? 今回は今までと違って、彼のポケモンが、犯人と交戦したんだろう」
「あー、それが、だなー……」

歯切れが悪そうに言う部下を促す様に、アゼルは訝しげに首をかしげる。エメラルドは、少しだけ戸惑った後に、

「確かに全員見ているんだけど、その全員の証言が全く違うんだよ」
『イーブイはんは、この地方では見たことのない大きなポケモンやったゆうてはるちゅうワケや。ところが、ギャラドスはんは、小さな人間の子供やったゆうとるん。んでもって、ミロカロスはんは、黒髪の人間の女性ゆうとるし、メタモンはんにいたってはミュウツーやったゆうわけで、証言がめちゃくちゃなんや』

補足するかのように、エメラルドの足元にいたエーフィが付け加える。シンクロの効果によってテレパシーのように言ってくるエーフィを見下ろして、傍に浮いていたムウマが呆れた表情をする。

『なにそれ。実は全員、催眠術にかかってたとか?』
『カオスはんの話では、少なくとも、全員起きてたみたいやけどな』

二股に分かれた尾をのんびりくねらせつつ、エーフィはあくびをかみ殺す。肩をすくめて、アゼルは付け加えた。

「催眠術だとしても、こうまで意見を食い違わせるのは難しい。――実際に戦闘していたのは誰だ?」
「えーっと、バンギラスだな。バンギラスのほうは……フィーン、なんつってたっけ?」
『最初に見えたのは、何故かシュウはんやったん。せやけど、攻撃を加えた一瞬、この地方では見たことのないポケモンのように見えた、って言うてはりましたな』
「ということは、この地方で見たことのないポケモン、というのが正しそうだな」

早々に犯人の目星を付ける上司に、エメラルドは意外そうな表情をする。その様子に、不服そうな表情でアゼルは部下を見た。

「なんだ」
「いや……なんか、アゼルにしては判断早いなーというか……普段だと『不確定要素だから、もう少し他の意見を集めろ』的な事を言うものだと」

言われて。一瞬、アゼルはきょとんとする。が、直ぐに困った表情になると、小さく咳ばらいをし、

「流石に知り合いが巻き込まれたんだ……あまり黙っているのは、僕の主義じゃない。――――それに、そもそも、現時点では足りなかった情報が入ってきたんだ。その中で特異な物があれば、それに重点を置くべきだろう」
「おおー、流石ツンデレアゼルさん! 仲間思いの癖にわざと誤魔化すあたりが何とも……ってちょっとアゼルさん影でぶっさしてくるのとか卑怯だろってのわああああああ!!!」
『だから一言多いやって、エメラルドは』
『馬鹿だねー、君の主人』

ゲンガーのポケ人である上司の影を使った攻撃を受け、青年は沈黙する。傍にいたエーフィとムウマは全く手を貸すこともなくため息をついた。

「ところで、カオスはどうしている? アイツの事だ。どうせ犯人を捜し出すとか言って勝手に」
『あー、それなんやけどな……』

アゼルから目をそらす形で、エーフィは気絶している主人の方へ目を向ける。不思議そうな表情のアゼルとムウマを横目に、エーフィはぽつりと呟いた。

『なんや知らんが、カオスはん、ぼんやりとシュウはんの相手してるんや。ほんま珍しいかったんやで……覇気のないミュウツーなんて、まずお目にかからへんやろ』



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