あの日の私は幼かった。
あの日の私は小さかった。
何も知らず、何も教えられることなく――あの日、私は、
あの人の大きな手を、震える小さな手でぎゅっと握り締めていた。
その大きな背に、偉大さと尊敬を感じていた。
私は、あの人に助けられた。





何時もの事だった。慣れた裏の仕事。慣れた耳を劈(つんざ)く悲鳴。
それが日常生活で、当たり前で、規則で、規律で――私の生きる証でもある。
誰にも見つからない、深夜の時間に私は協会へと戻る。
見られるのは嫌だった。怖い。見られるのがとても怖い。
自分が「失敗作」だといわれるのが怖かった。
赫い自分の姿を見られるのが嫌だった。





 『ふむ、もう少しこの成分を投与だ。それから実験を開始する』

    『やはり失敗です。しかし、能力は移行しました』

 『なんという力だ! これは失敗作ではなく成功例だ!』

    『惜しい、惜しいのだよ、君の力は……!その力があれば、世界すらもこの手に治められるのだ!』

     『なるほど……やはり失敗作か。彼を始末もできないとは――しかし彼もまた失敗作だ。なぜなら……彼は私達など眼中にないからだ』



失敗作。
失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作。





「嫌……違う、違う、の……私、は、わ、たし……は……」
月の光が私を非難するように冷たい明かりを叩きつけてくる。冷水よりもなお暗く、冷めた視線よりもなお温度の無い、氷点下の輝き。
思い返された断片的な出来事が、頭から離れずに鮮明な色を成していく。
絶叫しかけた喉を無理矢理押さえつけると、掠れた息が零れる。
「――大丈夫か?」
声に仰げば、崇拝しているあの人がいた。
普段から疲れている顔をさらに心配そうな表情にして、黒ずんだ赤い瞳をゆっくりと向け、私を抱きかかえている。優しく、柔らかく、撫でてくれている。
それが酷く、私の黒い感情を掻き立てるとも知らず。
「……ゴメン、なさい」
「?」
謝らずにはいられない。私は、この人物に謝っておきたい。
「ゴメンなさい……ゴメンなさい…………ゴメン、なさい……」
目の前にいるこの人は、きっと意味がわからないと思う。
それでも良い。それでも良いから私は謝っておきたい。

私は、貴方様を尊敬し、崇拝し――愛しています。
でもそれは決してかなわないことを知っています。何故なら、貴方には既に人がいるから。その人のために、貴方様が懸命に方法をいつも模索していることを知っているから。
だから、謝りたい。
貴方様を愛してしまう私を許してください。
貴方様を崇拝する私だから、謝りたいのです。

貴方様の為なら――この身を戦いで全てに捧げても構いませんから。


えた情表現


(愛する人がいる貴方を愛した私を、どうか許してください。)

051011/約一年前だけど設定変化していない上に結構気にいってる文章。メイミともう一人、テイルの父親であるクールの会話。
メイミは元々とある組織に売られてまともじゃない生活を送っていた。その所為でポケモンは嫌いになり、人間不信に陥る。
ただし、その組織が壊滅する時にクールがメイミを助け、彼女の生活環境が整うまで世話をしていた。
なので、メイミはクールを愛し、そして崇拝している。もちろん彼に奥さんがいるのを知っているので基本的に片思い。
本人としては神を愛しているようなそんな形。ただし、メイミ本人は神なんて一番信じていない部類だったりするけど。