その日、フカマルのソラは、ママであるガブリアスと一緒に、外へお出かけに行きました。ゆっくりと街中をめぐり、公園でアクセサリーを拾ったりして遊んでいると、気づけば空は曇り空。
そしてその内、とても重たそうな色をした空から、ぽつりぽつりと、やがて、ざぁざぁと、雨が降ってきました。
二匹は、公園に会った大きな木の下で、雨宿りをすることにしました。
『雨、止まないわねぇ』
「グギュゥ」
巨木によりかかって自分を抱きかかえてくれるママは、そう言ってため息をつきます。ソラも、それに倣ってため息をついてみます。
公園には誰もいない代わりに水溜りが出来ていて、空から降ってくる雫がその上にいくつもの波紋を作ります。そして、葉や水溜りを叩く雨の音が、公園に響き渡ります。と、
「ゲローゲローゲロー」
「ニョロ、ニョロ、ニョロ!」
「グォオゥー」
「ギュバァ?」
『あら?』
ふと、何やら自分たちとは違うポケモン達の声が、雨音に交じって、公園に響いて行きます。二匹は声がした公園の入口に目を向けます。そこに見えたのは、小さな黒いポケモン、大きな黒いポケモン、そして緑色のポケモンでした。三匹ともお腹の真ん中に渦巻き模様があります。小さな黒いポケモンの手には、茎が着いた大きい葉が握られています。
どうやら散歩の途中で公園の前を通ろうとしていたようで、聞こえてきた声は、彼らの合唱の声でした。
「ギュギュパ?」
『あら、ニョロモにニョロボン、それと、ニョロトノね。親子かしら?』
ふと、こちらに気付いたらしいニョロボンが二匹に向かって小さく手を振りました。ニョロトノも同じようにこちらに手を振ってくれます。
ソラもママも、それに気づいて手を振ろうとします。
と、ニョロボンとニョロトノの間にいたニョロモが、いきなり、こちらへ走り寄ってきました。
それにつられたのか、ソラも、ママの腕の中からすっぽり抜けだすと、雨の中、ニョロモの方へ走り寄ります。
そして、公園の真ん中、ニョロモとソラは見つめあい――――スッとソラが差し出したのは、公園で拾ったキラキラと光る石、そしてニョロモが差し出したのは、自分が持っていた傘のような葉。
二匹は満足げに頷くと、互いの持ち物を交換し、元いた場所へと戻っていきます。そして、お別れの手を振りました。
「ギュッパァ〜」
『ほんと、雨に濡れても元気ねぇ、ソラは。――はいはい、寒くなったら困るから、こっちにいらっしゃい』
雨にぬれても満足そうな表情で戻ってきたフカマルを、ガブリアスは優しく撫でてやると、ぎゅーっと抱きしめてくれます。風邪をひいては困ると思って、温めてくれるようです。
『それにしても、本当、雨止みそうにないわね……その貰った傘使って帰る?』
「ギュー?」
ママの言っている意味が分からないのか、ソラはくりくりとした目でママを見上げつつ、首を横にぐいーっと捻ります。その様子に、ガブリアスが困ったように笑った時でした。
『ユリア、ソラ!』
「ギュッパアアアー!!」
その声が聞こえた時、ソラは、雨にぬれることも泥だらけになるのも構わず、葉っぱの茎を握ったまま、公園の入口へ真っ直ぐに走りました。そしてそこに、ピンク色の傘を持ち、黒い傘をさして立っているバンギラスに向かって、一目散に飛びつきます。――ドラゴンダイブです。
そんなやんちゃなフカマルを、バンギラスは片手で平然と捕まえます。そのまま、ゆっくりと地面に下ろしてやると、ソラは嬉しそうに飛び跳ねました。パパのバンギラスが迎えに来てくれたのです。
すぐに、ママも木の下から雨にぬれることも気にせずに出てくると、パパのところまでやってくると、ソラと同じように軽く抱きつきます。
パパが呆れたように言いました。
『ユリア、何もソラのように来なくてもいいだろう』
『別にいいじゃないの。それに、これくらいなら、戦闘で"あまごい"をされたら同じ状態でしょ?』
『それはそうだが……風邪をひいたら困る』
『そう? というか、貴方のほうが、雨は苦手じゃないのよ。何でわざわざ』
『お前が心配だから迎えに来たんだが?』
『あ…………ありが、とう』
「グギュー、ギュパー!」
少しばかり恥ずかしそうにお礼を言うママの手を引くと、パパも一緒にソラを見下ろします。
そのタイミングを見計らって、ソラは、大きな葉っぱをパパの空いた手に渡すと、もう一つの空いているパパの手とママの手をそれぞれ握り、二匹の間に挟まれるように、それぞれの手にぶら下がります。
「ギュパァ〜」
とても満足そうな表情のフカマルに、パパとママは顔を見合わせ――楽しそうに笑います。
それが、フカマルにとっては何よりも嬉しく思い、もう一度、嬉しそうな声をあげました。
1122+a
(ピンクの傘と黒い傘の間、フカマルの声が、雨音に交じって澄んだ響きとなる。)
101122/良い夫婦の日に書いたユリアとソラとガイアの話。後は少しばかり書き方をキノの旅や童話にあるような書き方にしてみたり。