お借りしました!:おうかさん宅より シアンちゃん


「ひーちゃん、"火炎放射"!」

シアンの掛け声とともに、首周りから襟飾りのような炎を吹き出したポケモンが、力強い炎を吐き出す。炎は狂いなく一直線上に進み、目の前で左右に体を動かして踊っていた緑のポケモンをすっぽりと覆う。しかし、

「ルンパッパ、"水遊び"です」

彼らが戦っているポケモンよりも更にその向こう、黒服の男の声に反応し、ルンパッパと呼ばれたポケモンが炎の中でにこりと笑う。瞬間、そのポケモンの頭上から水が吹き出し、体を覆っていた炎を打ち消す。どころか、その水が広がったかと思うと、ルンパッパと彼らの間を隔てるような壁を作り上げ、地面に薄い水の膜を張る。

「これは……!?」
「私は常に、完ぺき主義でしてね。――これでもう、貴方のバクフーンの攻撃は無効化される」

男の嘲笑が混じった言葉に反応してか、バクフーンが紅蓮色の灼熱を吐き出す。しかし、水の壁は蒸発するような音と白い煙を上げるも、吐き出された炎を完全に無力化した上で、少しの穴も空けてはいなかった。

「そんな!」
「貴方達の攻撃は無力化させて頂きました。例え電気ポケモンと言えども、こんなところで電撃を使えば、貴方達も感電する恐れがあるから、うかつに出すこともできないでしょうしねぇ! ――しかしこちらの攻撃は通る、いわば一方通行の水ベールなのですよ。ルンパッパ、"水の波動"です」

帽子のような葉をつけたのうてんきポケモンは、その場で一回転したかと思うと、シアンに向かい、手の先から振動した波動を打ち出す。素早く近づいてきた技から主人を守るために、バクフーンは咄嗟に主人の前に立ちはだかると、技を直に食らう。苦手な水の波動が、炎タイプのポケモンの身体に衝撃を与え、バクフーンはその場に崩れ落ちる。

「ひーちゃん!」
「さてさて、まだ我々に盾突く気ですか? ――――ポケモン達を救うために立ち向かう少女。あぁ、なんて健気な姿なのでしょうか……! しかし現実は無残にも残酷。哀れ少女は、紳士的なこの私によって倒されるのです」

悔しそうな少女を見下ろす様にして前にやってきた男は、水の壁の向こう側からにやりとした笑顔で言葉を投げてくる。苦しそうな表情のシアンは、その場に倒れているバクフーンのひーを戻そうとボールに手を伸ばし、

「ガッ……ガウゥッ……!」
「ひーちゃん……!?」

主人の手を押しとどめるようにしつつ、バクフーンが、ゆっくりとその巨体を持ちあげる。しかし、既に相性抜群の技をダイレクトに受けているためか、行きのほうはかなり上がっている。後、何か一撃で食らえば完全に立ち上がれないほどだ。
男はと言えば、水の壁があるからか一歩も下がることなく、口元に微笑を浮かべる。

「ほぅ、まだ起きあがれますか……とはいえ、無駄な事を。炎タイプは、所詮、水タイプに弱い。そのバクフーンは既に満身創痍だ。おまけに、こちらにはこの水の壁がある。無駄な事を」

男を睨みあげつつ、シアンは立ち上がった相棒へ目を向ける。

「ひーちゃん、行ける?」

主人の言葉に、当たり前だ、と言わんばかりに、バクフーンが雄たけびを上げ、首周りから先ほど以上に爆発力ある炎が噴き出る。足元の水がいつの間にか蒸発し、周囲の体感温度がぐんぐんを上がっていく。流石に、目の前に立つバクフーンが先ほどと違う様子だからか、男の方は目を丸くしていた。

「なっ……まさか、バクフーンの猛火が発動したのか……!?」
「ひーちゃん!!!」

主人の力強い掛け声とともに、首先の炎が体に纏い始めているバクフーンが走り出す。男は慌ててルンパッパを振り仰いだ。

「ルンパッパ、あの死にぞこないに今度こそとどめを刺しなさい。"水の波動"!」
「ひーちゃん、"電光石火"!」

壁を乗り越えてやってきた波動を走りながら見据え、バクフーンが攻撃を避けて行く。対象を見失った波動はバクフーンを捉えきれずにその場で霧散する。

「くっ、ちょこざいな……ルンパッパ、避ける隙間も与えずに"水の波動"!」
「"スピードスター"よ!」

連続で生み出されて壁のようになってる水の波動の一つを狙い、バクフーンの身体から星の形をしたエネルギー弾が打ちだされる。星は波動に何度もぶつかることで、その幕の大きさを徐々に小さくさせ、遂にはバクフーンの元にたどり着く瞬間、波動が完全に消えてなくなる。

「なんだと!? だ……だがしかし、まだ水の壁がある! これをどう突破すると言うんだ!」

いつの間にか、バクフーンの体全体は炎に包みこまれていた。そのまま、バクフーンは水の壁に体当たりをする。ぶわっと熱によって蒸発した水が水蒸気として周囲に展開するが、壁には穴があかない。

「ひーちゃん、頑張って!」
「無駄だ! それは水の壁。相性の悪い炎ポケモンなんぞが破れるわけがない!」
「そんなこと、やってみないと分からないわよ! ひーちゃん、火炎車!」

シアンの声に答える様に、バクフーンの身体を纏う炎の大きさが一段と大きくなる。水分の蒸発する音が更に大きな音となり、バクフーンの闘志が燃え上がっていく。と、纏っている炎の勢いが、更に激しさを増す。
そして、ぼこっ、という水に気泡の混じった音が、その場に響き渡る。

「そ、そんな……水の壁に、亀裂が……!? それに、バクフーンの炎の、激しさが更に増しただと……!?」

焦る男とは対照的に、シアンは酷く高揚した感覚を覚えていた。
目の前で水の壁を突き破ろうとしている相棒の火炎車が、新技へとなったことを、シアンは直感的に感じていた。だからこそ――――にやりと笑い、声を上げる。

「いっけえええ!!」

バクフーンの"ニトロチャージ"が、水遊びで出来た水の壁を突き破り、壁の傍にいた男と、ルンパッパを吹き飛ばす。そのまま、一人と一匹は近くの壁に力強く叩きつけられる。
壊れた水の壁が音を立てて崩れるも、バクフーンの熱気によってすぐさま水蒸気へと変わっていく。
そして――――勝利を宣言するバクフーンの雄たけびが、部屋の中に響き渡った。





(燃え盛る業火が戦意を新たに引き締めるバクフーンの首から噴き出した。)

110324/補助技でもカッコいいバトルってないだろうか、というおうかさんの呟きを見て咄嗟に思い立って書きました、はい。大分ご都合主義的な描写があるとか言っちゃダメぇええorz
この頃は戦闘描写久々ーってことでかなりノリを取り戻しつつでした。敵キャラはただの妄想で特にこれと言った形がないのはいつもの形式です((