寒い寒い冬の夜。

風も無く、音も無く。

白い結晶が紺色に灰色を混ぜた暗がりの空より舞い降りてくる。

橙色の温かな灯りを掲げる街頭の傍、女性は紙袋を大事そうに抱えて立っていた。
赤く僅かに厚みのあるコートを纏い、冷えた素手に吐息を吹きかける。
息は外に出た途端、白い煙となって上空へ舞い上がり、それとは正反対に雪が舞い降りる。
冷えた外気は雪を伴ってさらに感じる温度を下げ、灰色の雲が増徴する厚みを増したように見える。
灰色の石畳の上うっすらと白いカーペットが続き、彼女の黄色の髪の上にも僅かな白が積もる。
寒さに僅かに躯を震わせ、頭に積もった雪を払い、軽く身震い。












視線を向ける。
先にあるのは石畳であり、暗闇だった。
彼女は持っていた紙袋を少しだけ強く抱きしめ――大事そうに、腕の中にしまった
それを温めるように――瞼を下ろし、息を吸う。
冷え切った夜気が彼女の肺を満たし、それに彼女が満足そうな表情。


そして、彼女の口から白い吐息が、メロディーと共に零れる。



子守唄だった。



自分がそこにいることを伝えるように空気が震え、奏でられる音が風に乗る。
流暢に口ずさまれた唄は静かな街角に澄み渡り、空へと消える。








寒い寒い冬の夜。
加わったのは、足音。




ふと、何かが駆け寄ってくるが、雪を踏み分ける音と共に響き、零れていたメロディーが途切れる。
視線を再び先の見えない闇に向け、そこに、先程まで無かった姿がはっきりとなってくる。


男性と、カビゴンだった。


そういて真っ先に駆け寄ってきた彼は彼女を見るなり目を大きく見開き、彼女を抱きしめる。


「唄、聞こえたぞ。おかげで、お前を早く見つけれた」


頭に雪が積もっている彼が息荒げに呟き、その腕の中、彼女はそっと微笑む。
追いついたカビゴンは、その様子に目を細め、満足げな表情。
それから降り続く雪を遮るように、彼らの頭上に組んだ両手を掲げた。


少しして。
彼女は片手を挙げて、抱きしめてくる彼に静止の合図をする。
そして持っていた紙袋に手をいれ――
――その手に長い彼女のコートと同じ色の、紅色のマフラーが握られていた。
きょとんとする彼に、彼女は困ったように笑い
普段と変わらない、防寒を一切していない
彼の首まで手を挙げ、手馴れた様子で彼の首にマフラーを巻く。
ふわりと風に乗った裾が靡き、氷の粒が巻き上がる。
そして、長さの余った裾を掴むと、自分の首にも巻きつけ、そのまま彼に抱きつく。


「温かそうな色で編んでみたの。どうかしら?」


興奮を隠し切れずに尋ねてくる女性に苦笑。
男性が自らの着ていた黒いコートを広げ、彼女をその中に包み込むようにしながら、囁く。


「ああ、揃って温かくなるからいいな。特に――今は、お前がいるし。お前も温めてやれる」




低く囁かれた熱のある息が掛かり、体温を上昇させ、頬を赤める。


ほら、温まった。


そう呟く意地悪な彼を見上げ、女性が彼にさらに強く抱きつく。


有難う。

消え入りそうな声で呟いた羞恥を含んだ女性の声。

それは雪に掻き消える事無く男性の耳に届き、彼はまた苦笑した。


A Long Muffler

(寒い寒い冬の夜。長い長いマフラー。温かい暖かい吐息が交じり合う。
二人が歩く雪の石畳、一匹が付き添う王都の道。柔らかな時間が風のように流れゆく)


071124 <BGM:key to my heart(piano.ver)>
少し遅れたある種の1122(いい夫婦)の祝い物とかとも言うやつ。去年はいまいちだったけど今年は結構改心の出来かなーとか心の中で思ってみる。
正確に言うなら改行が多いと言いますが……まぁ、仕様問題って事で。今回はちょっと作品の見易さ追求で内容は分投げているかm(待て)
フルート的に長いマフラーというのは結構素敵なアイテムだと思います。余力あればカビゴンにも任せてみたかったんだけど
描写が追いつきそうにも無いのでこの辺にしておく。こう、なんか温めあってて素敵じゃないですかね、ロングマフラー。
ちなみに今回オーディンとフレイヤにしたのは、普段出番がないだけで、実際に書いたら結構楽しそうだなーというのと後とあるお方のリクより(笑)