最初に彼を見た時、彼は二人よりも更に変わった人だと思った。


パチッ、と木の爆ぜる音がして、エリーゼはゆっくりと意識を浮上させた。少しばかり眠たげな瞼を何とか開くと、最初に飛び込んできたのは、天蓋のように生え伸びた木の枝葉だった。隙間から見える空は、鮮やかな橙色に染まっている。
それによって、自分の身体が横たわっているのは分かったのだが、何故、眠っていたかを思い出せない。寝ていたというのに気だるさはしっかり残っており、それがますます不可解に思えた。と、彼女は何気なく自分の手元を見て、

「……ティポ?」

普段から常に一緒にいるはずの相棒の姿が見えないことに、急激に不安が煽られる。ぞくっと寒気にも似た感覚を覚えて、彼女は思わず跳ね起きた。

「ティポ、どこ……!?」
『エリーーー!!!』

瞬間、むぎゅうっという音と共に、ぬいぐるみのような物体が彼女の胸元へと飛び込んでくる。全体的に紫色を基準としたその存在は、人とは違う大きくぎょろりとした二つの目で、彼女を見上げるなり、大きな口を安心したように緩めた。

『うううう、エリーが目を覚まして本当に良かったよぉ〜!!』
「ティポ、ごめんね」

泣きついてくるぬいぐるみ――ティポの頭を、エリーゼは優しく撫でる。彼女は改めて周囲を見渡した。
自分のすぐ近くには、パチパチと木の爆ぜた音を立てるたき火があった。周囲は葉の多い木々に囲まれており、すぐ傍にあるたき火がなければ、現在地が分からなくなってしまいそうなほど、深い森であった。ふと、自分の前がふっと暗くなる。ティポと共にゆっくりと顔を上げた先、

「よぉ。目が覚めたか?」
「っ……!」

目の前に武器を携帯した男が立っていた。
声をかけられ、思わずびくりと肩を震わし、彼から逃げるように身体を引く。が、同時にそれが相手に――仲間であるこの男性に対して、とても失礼な行動だということにも思い当たる。
自身の失礼な対応を即座に謝ろうとした頭は、しかし、声をかけた当人の呼びかけと差し出した物で遮られた。

「あ、いや、驚かせた俺が悪かった! それより」

そう言って彼が差し出してきたのは、湯気の立つマグカップ。心地よいカカオの香りが鼻孔をくすぐる。不思議そうな表情でエリーゼが見上げると、彼――アルヴィンは苦笑した。

「毒が抜けたばかりなんだ。無理はすんな」
「毒……?」
『エリー、戦闘中にモンスターから毒を受けて倒れたんだよ〜』

すりすりとエリーゼに頬ずりするティポがのんびりと言う。記憶があるところまでを思い出してみると、確かに、自分がこうして倒れる前は、確か戦闘中だったような気がする。

「俺やジュードのフォローが間に合わなくて悪かった」

そういって軽く頭を下げる彼に、エリーゼは首を横に振る。

「い……いいえ。あの……わたし、も……迷惑、かけて……」
「迷惑なわけあるか。俺達の体力を回復してくれる術士様には、毎度お世話になってるんだからな」

ぽんぽんと頭を軽くはたかれて、エリーゼは少しだけぼんやりとした表情で目の前の男を見る。
自分にとってはとても大柄な彼は、見た目だけで言えば威圧感のようなものを覚えるが、実際に話してみると、かなり気さくな人物であった。今もこうして気軽に話をしてくれる。はたかれた頭をちょっと押さえてから、エリーゼは小さく笑った。
その様子に、アルヴィンもまたにかっと笑い、

『ホントホント! ジュード君もアルヴィンもフォローがなってないよねぇ〜』
「お前が言える台詞でもないだろ、それ」

エリーゼの足元からアルヴィンとの間に割り込むようにして経ちあがったティポが、胸を張ってやれやれといった様子を見せる。アルヴィンが呟いた次の瞬間、ティポが巨大な口をバッと開いたかと思うと、アルヴィンの頭にぱくりと食いつく。
どたばたと慌てるアルヴィンと遊び半分で噛みついてるティポに、一瞬驚いた物の、困ったような笑いをもらしながら、エリーゼはティポに制止の声をかけるのだった。


傭兵と少女


(体の大きな彼が思ったよりも優しい人だと思った瞬間だった。)

110610/上手く……内情の表現できなかった……orz まさか本編でもこの二人の絡みがすごくあるとは思わなかった((