頼まれて買いに行ったもの。
それは大よそにして奇妙なものだった。

触るとふわふわとしており、見た眼だけならば澄んだ青空に浮かぶ白い雲を連想させる。だと言うのにも関わらず、ちぎって口の中に放り込んでみると、それは音もなく溶けてしまう。
アイスと言ったひんやり冷たい物が溶けるよりもなおあっさりとした、それでいて一瞬の出来事。そして口腔内を見たのすのは、砂糖の甘味と物足りなさ。
もう一度、一連の動作を繰り返して口の中へと転がして奇妙な食感を楽しむ。

「物珍しいのか、それ?」
「はい。お城にいた時には、こういうものを食べた事がなかったので」
「ま、城のお姫様が口にするような高価な物、ってわけでもないからな」

頬を緩ませるエステルを見下ろしていたユーリが肩を竦める。

「ユーリはよく食べるのです?」
「よく、ってほどでもねぇけど、まぁそうだな……甘い物は嫌いじゃないから、祭なんかがあると、フレンとはよく半分に割って食ってたな」

手持ちぶさたな両腕を頭の後ろにまわして、彼。人々の熱気を孕んだ街の風が、空と同じ色をした髪を撫でる。ちょいとだけ虚空を眺めた視線はすぐに傍の彼女へ向かう。
エステルが羨ましそうな様子で見上げていた。

「フレンのことを話すユーリも、ユーリのことを話すフレンも、楽しそうで羨ましいです」
「そうか? 馬鹿やってた過去の話をしても、オレとしては何の得もないからつまんないぜ」

肩をすくめては見るものの、人を観察するのが得意な彼女に誤魔化しがきかないらしく、彼女の表情が少しだけ陰る。思わず、小さくため息をついて軽く頭を掻く。
ため息に反応したのか、不思議そうな表情で顔をあげたエステルの視線が完全に向く前に、ユーリはぶらりと伸ばした手でもって、彼女の持つ袋の中に詰まったそれの一部をつかみ取る。
小さな母音を洩らした彼女の前でそれを口の中に投げ込んでから、口を開く。

「ぼんやりしてるなら、貰っていいよな」
「取る前にちゃんと言ってください。もう、ユーリはいつも言う前に行動して」
「例えば?」
「初めてリタの家に入ったときのこと、覚えていないんです?」

他にも、と言って旅の今までの行動にあった点を挙げるエステルの顔は、思い出を辿っている最中な為か、心なしか楽しそうである。話をある程度聞き流しながらも、そんな様子に目を細めて、ユーリは再び彼女の持つ袋に手を突っ込むと、ふわふわとした感触のするそれを取り出す。
話を遮られた意味があるのか、少しだけ目じりをあげたエステルがユーリを見上げ――柔らかで真っ白い菓子が、彼女の言葉を遮る。口の中に入れてしまえば一瞬とはいえど、ほんの僅かに間が空くだけでも、抗議の意味はなくなってしまう。

「貰ったんじゃないから、言わなくていいよな?」
「もう……じゃあ、言わなくていいですからユーリも貰ってください。同罪です」

売り言葉に買い言葉とでもいうのか。
彼女の唇に触れた熱で、僅かに溶けて指先に付着していた砂糖を舐めとっていると、少しだけ不服そうな様子でそんな返答をされる。同時に、エステルが口の中に収まる程度の大きさでちぎった物を突き出してくる。
ユーリは、彼女と、小さな手の中に納まっているそれを交互に眺める。

「それに、リタ達の分はまだ大丈夫だと思いますから」

よく見れば苦笑した表情になっている彼女が、くすりとほほ笑んでいる。桜色の髪が行きかう人々の動きとは違い、滑らかに揺れてみせる。
ユーリは肩をすくめた。そして少しばかり屈むと、砂糖菓子を持つエステルの手首を両手で掴む。
驚く彼女を気にせず、そのまま唇を近づけ、ほっそりとした指先までぱくりと口の中に含む。口の中の温度であっさりと綿あめが溶けるのを感じつつ、舌先で彼女の指の腹を擽り、少しだけ音を立てて吸ってみせる。そんな僅かな行動だけで、ちらりと見上げた彼女の表情は羞恥と反応を見せている。
一分程度も経過していないが、さりとて決して短いわけでもない秒数で食べ終えて顔をあげると、顔を赤くして呆然としているエステルと視線がはちあう。

「御馳走さん。何か、さっきより甘かったかもな」
「……ユーリは本当に意地悪です」

笑みを浮かべて見上げてくる彼に、顔を赤くして俯いたまま彼女はぼそりと呟いた。


綿菓子より甘い指先


(少しだけべたつきを帯びた指先が、酷く熱を帯びたような気がした。)

080925/拍手リクにあった「ユリエスの悶えるような甘い話」です。甘い話と掛けて甘いものネタ。糖分摂取しながら(*カステラ)そういや甘い物は食べるけどここ数年綿菓子全然食べてないけど大丈夫かなーとか思いながら書いてみました。あれ? 綿菓子って口の中に突っ込んだらすぐ溶けますよね? 飯塚は記憶が正しければ、食べた後のべたべた感が駄目で近年食べていないですが。というか、甘いもの食べるとしたら紅茶とかの苦いお茶を必須にしているもんで……そもそもここ最近お祭り行った記憶が皆無な気が……っていうか、だ。ベタすぎないかネタがあああああ!! 今回ばかりはユーリが似非っぽく見えてきましたよああもう何か色々とごめんなさいリクに沿っていなかったらさらに土下座させて下さい(汗)