口直し用の10回目です。




重たい瞼を開くと、頭に柔らかな感触を感じる。安心するような心地よい香りが、僅かに吸い込んだ空気と共に肺をこれ以上ないほど満足させる。ぼやけた視界を片腕でこすり、数度の瞬きで空を見仰いで――薄い水色に白が交じった天井何かと比べれば、すぐに手に届きそうな位置に、その桜色はあった。
そこで彼女の名前を出さすに、そしてまた驚きから跳び起きなかったのは、ある意味で起きたばかりの思考が麻痺してるからか、もしくは一瞬で冷静な状態まで持ち込まれたか。

とにもかくにも、ユーリはもう一度目をこすり、周囲を見渡し、状況を再認識しようと時間意識を戻す。
一面草むらばかりのそこで、自分は鍛錬をやっていたはずである。いつも通りの素振りやら術技効果の確かめをした後、吹き抜けの風が心地よく寝転がっていたところまでは覚えている。ラピードは寝転がる直前まで傍にいたと思うが、少なくとも、現時点で寝転がっている状態から確認できる位置にはいないことが分かる。
いつの間にかやってきた彼女は、寝転がっている自分を見つけて膝に頭を乗せた挙句、読んでいた本もそこそこに無防備に眠ってしまっているようだった。

ふと、そんなことを考えてしまうと、先ほどまで気にしていなかったはずの彼女の柔らかな膝に生々しい感触を覚え、風ばかりだと思っていた草原の音に彼女の寝息が交じり始める。普段のポーカーフェースを努め様にも、気づく音の数が増えてしまった今、脈動する呼吸音が切り崩しにかかってくる。
起きあがればそれでいいのだが、僅かに前のめりになっている彼女を起こすのは忍びないなどという思考がちらつく。むしろ、草原を滑る風に揺らめくその綺麗な髪へと手を伸ばしたいという衝動にかられる。
ほんの僅か、手を伸ばせばあっという間の距離にあるそれは、自分の感情を瓦解させるスイッチだ。ドミノ倒しのように、一度始まれば、後はただ連鎖反応を起こすだけである。
スイッチは、自分で押さない限り、ただあるだけに過ぎない。自らの手を押しとどめるようにと強く言い聞かせ、ユーリは上げかけた手を引き、

「んっ……ユー、リ……」

ただ広いだけの緑の草原に、黒のほかに、可憐な花が一つ増える。
零れ出た言葉と共に、彼女が幸せそうな小さな笑みを浮かべる。

スイッチは押さなければどうということはないが、誘発用がないとは限らないらしい。

手をのばしてさらりと手に馴染む感触を覚えてしまえば、後はもう気にすることはない。首筋に手を這わせてくすぐり、起き上がった彼女にキスを一つこぼして抱きしめてしまう。
腕の中の彼女、エステルが状況が飲み込めないために、驚きの声をあげるのも、説明が面倒で唇を口で塞ぐ。後はもうただ好きなように彼女を弄ること以外に意識が向かないのは、要するに、スイッチが押されてしまったからであり――結局、自制はあまり意味がなかったことだけは、とりあえず軽く抱きしめている彼女の反応を見ている客観的な自分が理解した。


Switch


そのころ犬は、日向で寝ている仲間達の傍で、見張りの様な昼寝をしていた。


(*口直し用?という名目で眠たいころに書いたので何でこうなってるのか自分でもさっぱりです。一応拍手=スイッチの思考はあった気がするのですが、何故に糖分控え目のだらだら書きなのかー。というか、BGMがDIVER#2100だったあたり、本気で自分に尋ねたい。何したかったんだ自分orz)