【ひとつ前の王様】

 『あぁ、暇だ。おいラプサン、何かねーか』
 『何かって何だよ。人間でもからかいに行きゃいーだろ』
 『何が悲しくて天魔王が人間をからかいにいきゃならない! あ、でもマナあると遊べっからなぁ』
 『お前のそういう能天気なところが羨ましいぜ』
 『い、一応考えているぞ? なんつーか、今後の事とか、何かあった時とか〜……』
 『ほっほぉ? なら、今の天魔王様のご意見を伺いしますが、何をお考えなんですかー?』
 『えー……まぁ…………ラプサン』
 『あんだよ。下らない事なら取り合わねーぞ』
 『もしも俺に何かあったら、その時は、お前に全部任せる。ってことで』
 『はぁ? ただの丸投げじゃねーか。俺はやらないぞ。お前の後始末なんぞ』
 『と、言いつつもやってくれそうだよな、お前。そういうところは義理堅いし。だから、頼んだ』

 にやにやと笑うそいつの頭を殴ろうと腕を振る。
 しかし、その手は宙を切り、何時しか、そこには誰もいなかった。
 結局彼は、何も言わずに消えていなくなったのだ。その理由を、最近まで、ついぞ知ることなどなかった。
 
「…………んあ?」
「あ、起きられましたね、ラプサン様。丁度、紅茶が入ったんで、宜しければ」
「……俺は寝てたのか」
「はい。でも珍しいですね。睡眠なんて、人間のすることですよ」
「お前もやってるだろ、ここにきて」
「僕はほら、だいぶ人間じみてますから」
「そういうもんか……なぁ。寝ているときに見るものは、夢、であっているな?」
「えぇ。そうですけど、何か見たんです?」
「ちょっと、な」
「あらあらぁ。ラプサン様にモミーさん、おはようございます」
「あ、おはようございます、レディさん。紅茶をどうぞ」
「おい、女。お前……何かしたか?」
「何か、ですか?」
「ちょっと、ラプサン様。レディさんを脅すのは止めてくださいよ。後で僕が叱られるんですからね」
「別に、ただの問いかけだ。後、お前はもう少し面倒な事態に巻き込まれておけ。俺が楽しい。――それで?」
「ごめんなさい、心当たりがないですわぁ」
「ならいい。貴様に聞いた俺もどうかしてる」
「あ、でもワタクシ、今日は楽しい夢を見ましたわぁ」
「楽しい?」
「えぇ。二人の天魔さんが楽しそうにお話されていたんですのぉ。とっても仲良しな感じでしたわぁ」
「天魔? それってどんな感じの」
「女。それは、本当に仲がいいと見えたか?」
「ラプサン様?」
「えぇ。だって、お願いが出来るのは、本当に相手を信頼しているからですものぉ」
「……そうだな」
「うわぁ。ラプサン様がそんな風な表情するなんて、天変地異の前触れですかね痛っ! あ、すみませんごめんなさい! だから、何でみんなして足蹴にしてくるんですかー!」

(にこにこと微笑む人間の女を一瞥し、天魔王は側近を踏みつけ、肩をすくめた)