「テイル、朝だよ! 大晦日だよ! おーかーだーづーけー!」

布団に包まっている義理の兄を、セイナはぺしぺしと叩きつつ声をかける。ベッドの傍には、彼の手持ちポケモンが呆れ半分、にやにや半分といった表情で各々は様子を見守っていた。
一向に目覚める様子のない彼を見下ろし、ピンク色の髪をふわふわ揺らしながら彼女は頬を膨らませた。

「テイルってばー! 朝だよ! 寝すぎは体に良くないんだよー!」

バシバシと布団の上から彼の身体を叩いていると、彼がほんの僅か、うっすらと目を開け、少女を見上げる。気がついたらしい義理兄に、セイナが声をあげようとして、

「……もう少し寝かせてくれ」

そのまま、彼は布団の中に潜ってしまう。その様子に、これでもかと言うほどに頬を膨らませた彼女は、

「テイルー!!!」

ばふっ、という音は、彼の眠るベッドの上に――――正確には眠ろうと布団にもぐった彼の上に、彼女がダイブした音である。もぞもぞと布団が動くのを見逃さず(布団を間に挟んで)彼に抱きついて、セイナは再び彼の身体をペシペシとはたく。

「テイル、テイルー! 起きてー! 起きないと死んじゃうよ! クールが風邪でお手伝い出来ないし、シャドウなんかはもうとっくに起きてるんだからー! それに、ツーはザードやシャドウのポケモン達と一緒に家の中の掃除してるのー! だーかーらー、起きてー!」

ぎゅううっと抱きつきつつ、セイナは彼の体を揺さぶる。やがて、低血圧の彼は亀のようにのっそりと布団から顔を出し、自分を起こしに来た義理の妹を見る。

「……お前は仕事をしないのか」
「テイルを起こすことが仕事だよ、ってシャドウに言われたもん。で、多分、テイルを起こしたら、みんなでお買いものに行くのー!」
「……今、何時だ」

青年――テイルにため息混じりに言われ、セイナはきょろきょろと部屋を見渡す。と、気のきいた彼のザングースが、机の上に投げ置かれたポケギアを彼らの元まで持ってくる。デジタル表記には、AM9時という字が刻まれていた。

「9時!」
「なら、店が開くまで後1時間はある」

そう言って再び布団の中へ避難しようとする彼の腕と布団を掴む。ぼんやりと見上げてきたテイルの目の前で、セイナは体を起し、彼の上から体をどかしつつも、ベッドの上にちょこんとと正座する。そして、下手に悪戯な笑みを浮かべて、

「テイル、起きなさーい!」

バッ、と布団を横にはねのける。
その瞬間。
セイナの身体が自然と前に傾く。腰元から前に押し込まれるような感覚になすすべなく彼女が倒れ、彼のすぐ横に倒れこむ。
状況が読めないまま目をぱちくりとすると、先ほどはねのけたはずの布団が上から降ってくる。思わず逃げようとして、しかし腰が浮かない事――――どころか、体が自由に動けない事に気づく。そのまま、慣性の法則を無視するように前に引き寄せられ、視界が黒く覆われる。
何とはなしに顔を上げれば、眠たげな眼差しのテイルの顔があった。どうやら、セイナの腰に手を回して動きを抑制し、そのまま自分の方へ引き寄せたようだった。当然の自体に全く対応できずに目を白黒させる義理の妹を気にすることなく、彼は彼女を引き込んで毛布をかぶり直す。

「ちょっ、ちょっと、テイル! だ、駄目だよ、寝たら! というか、これだったら、私も眠くなる!」
「だからいいだろう。お前も寝れば、俺も静かに眠れる。一時間くらいなら起きるから大丈夫だ」

わたわたと暴れるセイナの頭を布団をかぶった手で優しく撫でつつ、(低血圧で寝ぼけている)その男はふんわりと笑う。普段はあまり見せないようなその優しい雰囲気に、彼女が思わず反抗の手を緩める。と、その隙を突くようにして、テイルは更に引き寄せると、黒服を着ている胸元に彼女の顔を埋めさせる。ばふっ、という埋もれるような音を最後に沈黙する彼女をちらりと見下ろした後、彼は再び、睡魔に身を委ね、数分もしないうちに寝息を立て始めた。
暫く、彼の手持ちポケモン達はその様子を呆然と眺めていたが、

『――――さて。一時間したらマスターを起こしますが……その間に、私達はツーさんやザードさんの手伝いをしましょう』

肩をすくめるマッスグマの言葉に、全員が呆れた表情で頷くと、ぞろぞろと扉の外へと気の進まない足を進める。そして、最後に出ていこうとしたマッスグマは、ちらりと、主人の寝るベッドの方へ目を向ける。
(まだ起きているものの、興奮と羞恥で)肩を震わせている少女と、ぐっすりと寝たまま彼女を抱きしめている主人の姿がある。
その様子に、テイルの相棒はこっそりとため息をつくのであった。


いつも通りの朝


(ふと目が覚めた彼は、義理の妹が自分と同じ布団の中でぐっすり眠っていることに驚いたのち、自分の馬鹿さ加減に少しばかりため息をついたのであった。)

110126/大晦日に出そうとして結局1月に伸びたお話。テイルは基本的に寝ぼけているときは割と感情に素直です。