今日は特にやることも無かったからお昼ごはんを食べた後にテイルの家に行く事にした。(行こうとしたらツーも行くと言ったんだけど、私としてはテイルと一緒に二人でのんびりしたいなーなんて考えていたから、ゴメン、って断ったら、凄まじく嫌そうな顔されたけどとりあえず忘れることにしておく。)

テイルの家に行ったらシャドウとクールがテーブルを挟んで椅子に座って向かい合っていた。シャドウは何時もみたいにニコニコしているのとは反対に、クールはなんだか眉間に皺を寄せて考え込んでいた。(二人の目の前には、片面が白でもう片面が黒の丸いプラスティックの物体が、マスが引かれてあるボードの上に乗っていて、ほとんどが黒で埋め尽くされていた。)

「ねぇテイルは?」って私が聞くと、シャドウが手に持っていた丸いそれを、表側を黒にして置いて、その周囲にあった白いやつをひっくり返して黒にしながら、「上の階で寝てるよ。昨日の戦闘でほとんど寝てないからねぇ」と答えた。クールはさらに眉間に皺を寄せて、複雑そうな表情をしながら「あまり起こさない方が良いかもな」と言ってくれたけど、でも私としてはテイルと一緒の場所にいれればそれで良いから、「部屋にいるだけだから」って答えて階段を上がった。(上る時にちらりとシャドウとクールを見たら「シャドウ、少しは手加減しないのか?」「ゲームに手加減なんて無いよ、クール。それじゃあこれで僕の五連勝だから、後でアゼル君に渡す書類の方よろしくね」なんて言ってたけど私には関係なかったからさっさとテイルの部屋に向かうことにした。)

部屋の扉を音を立てないようにして開けてから、こっそり部屋に入ってみる。見れば、テイルは真っ白いシーツの上でのんびり横になって寝ていた。珍しいテイルの寝顔に私は少し驚きながらもそっと近づいてみる。顔を覗き込んでみたら、どう見ても寝てるとしか言い様が無いテイルの表情があった。ちょっとは起きててくれないかなぁ、なんて思ったけど、でも昨日の任務で寝れてなかったというシャドウの話を思い出して、テイルが寝ているのも当然かなと思った。でもやっぱり構ってくれないのはつまらなくて、私はそっとテイルの頬に手を添えてみる。とても綺麗で、女の子だとちょっと嫉妬したくなるような肌に触れて、少しだけどきどきとする。でもテイルはやっぱり起きない。(ちょっとだけ起きる事を期待していたんだけど、疲れているんだからしょうがないといえばしょうがない。)

結局起きないテイルから手を離して、これからどうしようかと考えていた私は、ふと、テイルの寝ているベッドを見てみる。窓の方へ顔を向けている方向に、人一人が転がれそうなスペースを発見。季節は秋なんだけど、それでも暖かく柔らかな午後の陽気が、まっさらなシーツの上へ柔らかな光を投射している。私はもう一度(今度はテイルの上に乗ってあった茶色のさらさらした手触りのいい髪を横にずらして顔が見えるようにしてみた。)顔を覗き込んでみる。やっぱり起き上がる様子の無いテイル。(私は少し不満そうな顔で「ばか」と呟いたけどやっぱ起きない。)

ゆっくりとテイルを起こさないように慎重な足取りで(自分にしては見事なほど音もなく揺れもなく上ったと言い張ってみる。)ベッドの上に上ると、するりと空間の中に躯を入れてみる。丁度投げ出されるように置いてあったテイルの腕を枕にして転がってみると、午後の日差しのおかげで温まっていた白いシーツが、私に丁度いい睡魔を持ってくる。(そういえばお昼ご飯を食べた後に眠くなったけど、その時は流石に行儀が悪いとツーに指摘されて眠れなかったっけ。)ころん、と躯を転がしてみると、上手い具合にテイルの懐に顔を埋める形になる。いつも安心する彼の香りを感じていると、睡魔がさらに大きな波になって襲いかかってきた。最初は少ししてから抜け出そうと思ったんだけど、予想以上の大きな波は私を覆いつくし、私も抗うのをやめて波に乗ることにした。(別に面倒なんじゃなくて何となくなんだから。)

「セイナ」と呼ばれたような気がして、私は何となく目を覚ました。窓からはオレンジジュースを零したような色の光が溢れていて、周囲を同じ色に染めようとしていたのを見る限りでは、もう夕方らしい。とりあえず私は躯を起こそうと思って、だるい躯に力を込めたんだけど、なぜだか起き上がれない。どうしてだろうと思って首を傾げて、私はそこで初めて、背中から、私じゃない別の誰かの腕で抱きしめられている事に気が付いた。それをちゃんと理解するまで、私の頭はぼぅっとしていたけど、やっとのことで、テイルが私を抱きしめているのだと気が付いた時には、顔から火が出るくらい恥ずかしくなって、私は彼の腕の中で慌てた。すると、「やっと起きたか」と、テイルがいつもと代わらぬ無表情で静かに呟いた。その低い声が、吐息と一緒に額に当たって、私はびくびくと躯を震わせながらテイルを見上げる。怖いんじゃなくて、とても恥ずかしい。心臓がさっき以上に早く動いてて、自分の耳にその音が痛いくらい伝わってくる。(なんだか目の前で平然としているテイルにも聞こえてるんじゃないかって思ったら、さらに恥ずかしくなった。)

「全く、なんでお前は警戒心を……まぁいい」って呟くテイルに「何が?」って尋ねたら、テイルが少し考え込んで、そして珍しく(本当にそれは貴重な感じがしたの)微笑を浮かべた。あんまりにも珍しくて呆然とした瞬間、首筋に何か冷たい感じがして、ひゃっ、と思わず声を上げる。見れば、テイルが私の首筋に冷えた手を添えていた。そのままゆっくり撫でてくるから、なんだか心地よいと言うよりもくすぐったくて、私は笑いながら逃れようとする。でもテイルはそれを遮るようにさらに強く抱きしめてくるから、逃げようにも上手く逃げれずに、躯を少し震わせていた。そしたらテイル、なんだか小さく溜息をついて(なんだか何時も以上に間近でテイルを見てるからなのか、とても熱の感じる息が耳元に掛かるからなのか、とにかくとってもビックリして、自分では無いような声が口から零れた。)私の躯の向きを、テイルの顔が見えるような方向を向くようにした。意味が分からなくて首を傾げてたら、口にとても柔らかい感触を感じる。唇が重なってるって気がついたんだけど、でも頭の中では状況判断が追いつかないままで、そのまま半開きだった口に柔らかい別な舌を感じて、それに自分の舌が遊ばれているというのを何となく頭の片隅でぼんやりと理解する。呼吸が出来なくてちょっと苦しい感じがするのに、でも舌の触れる感じが苦しい感じを忘れさせてくれた。(なんだか苦しいよりもぼんやりとした感じがする。)

それがどのくらいの長さだったか分からないんだけど、でも数秒だったのは間違いなかったと思う。(だって口が塞がれていたら一分も呼吸は持たないから。)ゆっくり口が離された時に反射的なんだけど小さく名残惜しそうな声が出て、テイルが(やっぱり珍しく)可笑しそうに笑った。「眠っていた割りに随分甘かったな」って言うのはよく分からないけど、(だって寝る前に私は家で甘いものを食べた記憶は無いもの。)でもそれを抱きしめながら耳元で言うのは、なんていうか、"ずるい"。何も言えなくて(というか何を言ったら良いのか分からなくて)テイルの胸元に適当に顔を埋めて服を引っ掴みながら「ばかー」なんて呟いたら、「馬鹿はお前だ。何も羽織らないで俺の隣で寝てるなんて、風邪でもひく気か?」とか言って、ちょっとだけ強く抱きしめてくる。だから私もテイルに抱きつきながら、「こうやってぎゅーってしてくれるから温かいもん」って答えた。テイルがやれやれって顔をするから、私が嬉しそうな顔を向けると、唐突に私の首元へ顔を寄せてくる。(耳に吐息がかかってはっきりとテイルの呼吸を感じてしまうのが)なんだかとても恥ずかしいから退いて、って言おうとしたら「確かに、温かみがあっていい香りがするな」なんて言って首筋を舐めてきたから、やっぱりさっきみたいにすっとんきょうに驚いた声を上げて(そしてやっぱり自分じゃないような声が漏れた)躯を大きく震わせる。(だからやっぱり私に何も言わないで行動を起こすテイルは"ずるい")

それから顔を上げたテイルが、私の顔を覗き込んできて(恥ずかしいと思ったのにでも顔を背けられなかったのはテイルの綺麗な赤い宝石のような瞳に魅入ったからからなのかもしれない。)「どうする?」と告げてきた。何をどうするのか私には(本当にさっぱり)分からないんだけど、でも心のどこかで、このままテイルのいう事を聞いてればいいかなーと思えてきた。何をするか分からないけど、でもテイルの浮かべてる優しそうな表情に、(傍から見ると多分無表情なんだけど何だかんだ言ってテイルにはちゃんと表情があると私は知ってる)なんだかとても安心感を覚えて、どうにでもなれ、っていう気分に私をさせる。こうしてまごついているのすら楽しそうに見ているテイルを見上げながら、どうにか見つけた"肯定"という答えを、私は伝えようとして、テイルの服をきゅっと握りながら引っ張り――ぐぅ、という場違いな音に、テイルと私で顔を見合わせる。音の原因が私であって、それがお腹が空いたと言う"かっこたるしょうこ"だと気がつくと、私は(先程以上だ)恥ずかしくてテイルの胸に顔を埋める。(この時ちらっと見上げたテイルの顔は、呆れ半分安堵半分という微妙な顔つきだった)

私からゆっくり手を離して、しゃん、とその場に座らせると、テイルが「そろそろ夕飯だろうから食べて行くか?」と尋ねてきた。少々呆然としていた私だけど、慌てて首を縦に振ると、呆れたように肩を竦めて立ち上がろうとする。でもここまでテイルに遊ばれっぱなしだった私としては、何か一度くらい仕返しがしたいと思って、テイルが机の上に置きっ放しにしてあったボールを取って黒い上着を着る前に一生懸命仕返し方法を考える。そして、ベッドに座ってボールの中にいるポケモン達と軽いやりとりをしているテイルへ、背後から抱きつく。テイルが訝しげな表情でこっちに振り向く前に(思いついたときは一瞬やっていいのかどうか悩んだけど、多分怒る事は無いからいいかなと思った)私は耳元へ顔を近づけて、そっと息を吐き出しつつ耳たぶを軽く噛んでみた。ちゃんと歯は立てないようにしながら、舌でぺろっと耳たぶを舐めつつ、数回だけどはぐはぐとやってみる。(その時のテイルが一体どんな表情をしていたか見れなかったけど、多分驚いていたと思う。)

振り返ったテイルの表情は、何時も以上に無表情で、何を考えているのか上手く読み取れなかった。ただ、私が噛んだほうの耳元を押さえ、少しだけ頬を赤くしてる。(やっぱりすっごい珍しい)テイルの表情に、私が驚いてると「もう少し上手く出来るよう練習でもしておけ」って言われて、「何が?」って言う前にテイルに抱きしめられて、同じ様に耳たぶに軽く噛み付かれる。私と違ってとても滑らかに動かすから、何か言う前に躯が自然と強張る。(結局このとき、やっぱテイルに仕返ししてもさらに仕返しさせられると気がついた。)

ゆっくりとテイルが離れても、私は未だに呆然としていた。「ほら、行くぞ」と言って私の腕をテイルが引っ張り上げるんだけど、でも躯のほうは上手く動けなくて、どうやっても立ち上がれない。私は困ったように「テイル、立てないんだけど……」と呟いてゆっくり見上げたら、テイルが呆れたような溜息を吐いて「もう少しだけだからな」って言って、隣に座ってくれた。それが嬉しくて「大好き」って言いながら腰元に抱きついたら、「俺はお前を愛してる。お前は"好き"止まりなのか?」と頭の上に軽く手を置かれて尋ねてきた。「"好き"と"あいしてる"は違うの?」と首をかしげて聞いたら、「全く違うな」と耳元で囁かれた。再びテイルが「お前はどうなんだ?」と尋ねてくるから、私は「"あいしてる"よ」って答えたら「随分舌足らずだな」と呆れられたけど、でも優しそうに微笑んで、頭の上に置いてあった手で優しく頭を撫でてもらった。(とても気持ちよくてまたうとうとしそうだったんだけど、テイルが私を起こすように何度か言葉をかけてくれるから、結局寝ないで済んだ)


警戒心0×無邪気100


=舌足らずな愛の返答?



(結局、外のオレンジ色が暗い藍色に変わろうとする直前の色に染まるまで、私達は部屋にいた。
 後でシャドウに「どうだい、楽しかったかい?」と笑顔で尋ねられて、私は何も言えずに顔を赤くすることとなった。)




060925/文化祭前に書いた物その二。題名が非常に微妙だったので一生懸命考えたけど結局大して変化ない事を先程気が付きました。
ちなみにこの当時はドラ焼きと緑茶を飲みながら文化祭関連のメールを一生懸命打っていた気がします。ああ懐かしい。