1.


ふと、気づけば彼は公園の砂場で一人遊んでいた。
同年代の子供のいる場所に少年を連れて行ってやれればいいのだが、いかんせん、今の彼は酷く危ない。それは性格的なものではなく、生まれ育った家系の問題と言うべきか。同い年の子供達と遊ばせるにしては、カオス自身、人間とのなれ合いが出来てはいない。しょうがないので、彼は、地域の子供たちが幼稚園などでいない時間を見計らって、主の息子を公園に連れて行っていた。
しかし、自分は何時ごろ、彼を公園に連れていこうなどと思ったのだろうか。思いだしてみるが、頭の中は靄がかかったかのようで、具体的なものが何一つ出てこない。結局、カオスは考えることをあきらめて、砂場で一人懸命に遊ぶ少年の傍まで行く。
一応、外に出るのだからと人間の姿をしているが、何時でもミュウツーになる事は出来る。周囲の気配を探ることも怠っていないが、とりあえず、敵意の様なものは感じられない。
少年は砂場で小さな山を作っていた。水の入ったバケツを何度か山の上にこぼし、下地をしっかり固めている。

『何やってんだよ』

カオスが尋ねる。しかし少年は答えず、一心不乱に山を作る。怪訝そうに眉をしかめたが、少年にはこちらの様子は見えないからか、全く反応を示さない。ため息をひとつついて、カオスは少年と向かい合うように、その場にしゃがみこんだ。
黒い頭が揺れ動くたびに、砂の山は少しずつ大きくなっていく。バケツの中の水は、山が固まっていくごとに減っていく。トントン、と砂と鉄の混ざった音が、二人しかいない公園の中で響く。
ぼんやりと眺めていたカオスは、ふと、それがただの山でない事に気付いた。よく見れば、山は何かの形をしていた。それが、幼い少年の手によって、歪な形になっていく。さくさく、という砂を切るような音と共に、気づけば、山は切り崩されていた。
そして、そこにあるのは――――長方形の箱だった。蓋の様なものが転がっており、傍には黒い花が咲き乱れていた。それはもはや、子供が作り上げる砂の世界ではなかった。
思わず目を見開き、彼は立ちがある。自分のいた砂場と思しき場所は、何故か、黒い花畑になっていた。傍にあるのは、その黒よりもやや光沢のある、黒い柩。
カオスと言う名を持つミュウツーは、少年を見下ろした。彼はスコップとバケツを持って、こちらを見上げていた。黒い瞳が、人の姿をしたミュウツーを虚ろ見見つめる。

『おい、シュウ!』

思わず、少年の両肩を掴んで揺さぶる。
すると少年は、小さく首をかしげてこう言った。

「俺を守らないなんて、酷いよ、カオス――……」







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