モノクロ地方ポケモン協会四天王とキングダム地方四天王における交流試合の当日。開催が決定したのは一ヶ月前という慌しい時期であったにも関わらず、キングダム地方王都にある闘技場内は、試合前から多くの観戦者でごったがえしていた。各地方に放映するためのテレビ局がグランドの特別席にひしめき合い、試合開始を、今か今かと待ちわびている。
 キングダム地方王都ロンドシティの円形型の闘技場は、街の外れに複数存在し、地方のリーグ戦ではよく使用されている。今回の交流試合で使用されるフィールドは、その中でも四天王戦などの大型試合で用いられる場所だが、一見すれば通常の公式試合に用いられるフィールドとなんら変わりない。
 堅く広いフィールドがあり、観客席はフィールドから少し高い位置に設置されている(大体大型ポケモンの頭よりもやや上くらいの一になるよう設定されているという)。少し上の位置には試合の様子を映し出す巨大スクリーンが向い合せに設置されており、離れたところの観客も見れるようになっている。また、円形型によって観客席のさらに外側(通路側)にはいたるところにテレビモニターが入り口に設置してるので、決して中に入れなくても見ることが出来るようになっている。
 今回の交流試合は、当然初めての試みであったこともそうだが、なにより注目されている理由は「地方の四天王の実力を見ることが出来る」というものであった。なにせ、どちらの地方の四天王も、近年、公でバトルする姿を見せていない。四天王と言うのがどれほどの実力を持っているのか確かめる絶好の機会なのだ。やがて、

『あーあーあー……こんなものかしら?』

 スピーカーを通して、女性の声と、耳障りな高い音が闘技場内に響き渡り、観客のざわめきは波のように引いていく。
 そんな中、マイクを持っていた人物"達"は入口からフィールドを横断し、中央に向かって歩く。
 向かう姿は二つあった、一つは女性だ。金色の長い髪をポニーテールにして、恰好は女性騎士団員が来ている制服を少し改造したものを用いていた。すその長い紺色のコート、短い黒のスカートは規定通りだが、色合いや飾りは違っている。首元からは白いスカーフをのぞかせ、頭にかぶるテンガロハットには一枚の白い羽根飾りがついている。目元を隠すアイマスクの仮面は、銀色の上に水色の輝きが入ったものである。
 そんなド派手な格好(何かの仮装かと勘違いされてもあながち間違いではない)な女性の隣には、もう一つの姿がある。
 取り立てて目立った特徴のない黒い燕尾服に身を包んだ黒髪の男性だ。目元は女性同様、アイマスクの仮面で隠しており、こちらは黒を主体とした板に銀色の模様を施したものとなっている。
 悪目立ちしたようなその二人はフィールドの中央で深くお辞儀する。そして、マイクを持っている女性がすぅと息を吸い込み、

『皆さん、お待たせしました! これより、キングダム地方四天王対』
『モノクロ地方のポケモン協会四天王の』
『『交流試合を始めまーす!!!』』

 わっと湧き上がる観客の歓声に沢山の拍手の音が混じり合う。女性は口元に笑みを浮かべてお辞儀をする。

『さてさて、今回の司会と実況をさせていただきますのは……キングダム地方ではお馴染み、公式大会の実況やら司会やらはたまたラジオパーソナリティとかやってる、ワタクシ、ヴィエルと!』
『ヴィエルさんにお呼ばれされました、モノクロ地方では司会とか実況とか後はカフェのマスターとかそんなことをやってる、レジェンの二人でお送りします。どうぞ宜しく〜』

 にこりと笑ってお辞儀をする男性。再び観客の拍手や歓声などがフィールド内の音として埋め尽くされていく。そんな中、物おじすることなく、女性――ヴィエルの声が響き渡る。

『で、まずはちゃっちゃと各陣営に出てきてもらいましょう。――まずはキングダム地方、四天王アーンド国王様ー!!!』

 一段と大きな観客の声援と拍手を受けて、ヴィエルが手を向けたベンチ側から六人の人間が姿を現す。
 茶髪のあどけなさが残る少年、金髪のドレス姿の女性、黒髪の左に仮面を付けた青年、金髪に黒コートを肩にかけた男性、騎士の格好にアイマスクをつけた茶髪の青年、そして暗い赤髪にエメラルドグリーンの瞳をした国王。観客に向かって一斉にお辞儀をすることで、歓声がわき上がる。

『さて、じゃあこっちも紹介しようか。――ポケモン協会四天王、及び、ポケモン協会長!!!』

 ヴィエルが向けた方向とは正反対のベンチにレジェンが手を向けると、ベンチからやはり六人の人間が姿を現す。
 紫髪の背の低い青年、金髪にスーツで身を包んでアイマスクをした青年、青髪のおかっぱな女性、全身をフードですっぽりと覆った仮面の男、黒髪の目つきの悪い少年、そして茶色の長い髪に紅く染まり過ぎた感じのする赤い瞳の協会長。こちらもまた、観客に向かって一斉にお辞儀をすることで、歓声がわき上がる。

『では、簡単に各地方の四天王や長を確認したところで、早速第一試合、キングダム地方四天王のスフォルツァンド=ルアーブルvsモノクロ地方協会四天王のトウグウ アゼルの試合を始めていくわよー!!!』


*****


「テイル、ホウナさん、試合始まるってー!」
「分かった。今行くから少し待ってろ」
「お菓子を盛りつけたらそっちに行きますね〜」

 居間にいるセイナの呼び声に、料理をする時だけは長い髪をポニーテールにしてるテイルはゆるく肩をすくめ、ホウナと呼ばれた金髪の女性は可笑しそうに笑う。テイルは紅茶を注ぐ準備をしており、ホウナは手元にあるクッキーを盛りつけ用の皿にのせているところだった。

「すみません、手伝ってもらって」
「ふふふっ。私こそ、お邪魔じゃないかしら? 折角、セイナちゃんと水入らずの時間を過ごせるはずなのに」
「別に。アイツとは何時でも一緒にいれますから」

 紅茶をポットからティーカップに注ぐ彼の表情は、何時も通り無感情である。しかし、普段造作もなくポットに注ぐはずの彼が、その話をした途端に珍しく紅茶を少しこぼしていた。そんな様子にホウナはもう一度可笑しそうに笑ってから、丁度、盛りつけ終えた皿を持って居間へと向かう。
 セイナは居間のテレビを食い入るように見ていた。傍には、全員の手持ちポケモン達がそれぞれ見やすい体勢で、やはり彼女と同じようにテレビを見上げている。
 普通の家にあるものよりやや大きめのテレビには、丁度、交流戦の試合前の模様が映っていた。各ベンチにいる四天王達が映されているのだが、なにか問題でもあったのか、互いの陣営共に、険しい表情のままなにやら話あっているようだった。
 と、そんなシリアスそうな画面がパッと切り替わり、開始前ということで、司会兼実況者と名乗っていた女性と男性が、それぞれ今回の試合のルールの説明などをし始める。

『今回の試合は、一試合ごとにルーレットを回して、それによって試合形式とフィールドを決めていくわよ!』
『形式は、シングル・ダブル・トリプルの三種類、フィールドは、草・氷・水・炎・岩の5種類だよ。あ、フィールドは場合によっては天候が付属する事もあるからね〜。それと、フィールドだけは一度の試合で使ったら、次の試合では選択肢から除外されていくよー』
「ホウナさん、レジェンさんが映ってる!」
「あら、本当ね」

 仮面は被っていても声と名前で誰だか一目瞭然の司会の男を指し示して、セイナは嬉々とした表情で振り返ってホウナを見仰ぐ。にこにことした表情のホウナがテーブルの上に皿を置いた途端、一部、暇そうにしていたポケモン達がわっと皿の傍まで群がる。そして、大皿の上にあるクッキーを見つめるなり、それぞれが手を出して食べ始める。そのことにやっと気付いたセイナが「あ、ずるいー!」と言ってテレビから目を背けると、お皿の上のクッキーを食べる分だけ手の中に掬いあげる。

「そんなに慌てなくても、まだ焼いている途中の分があるから大丈夫よ」
「全く、何してるんだ」

 疲れたような声に振りかえると、紅茶の入ったティーカップを盆の上に載せたテイルがホウナのすぐ後ろに立っていた。セイナは自分の手の中に確保したクッキーをつっつく隣のポケモンを指差した。

「だってだって、ヤミラが私の分取るんだもん!」
「ヤミラ、あまりセイナを苛めるなよ」

 主人の言葉に、ヤミラと呼ばれた黒い鳥ポケモン――ヤミカラスがお茶らけた様子で、カァカァ、と軽く返事をする。そして、くるりとセイナから向きを変えると、今度は皿に残っているクッキーを突っつき始める。それによって、残り数少ないクッキーを死守せんとばかりに、他のポケモン達が一斉にお皿の上のクッキーを奪い合い始める。
 セイナは自分の分を確保できたことで、満足げな表情でテレビに向かい直る。ホウナはテーブル傍にあるソファに腰を下ろすと、テイルがテーブルの上に置いていく紅茶の満ちたティーカップの一つを持ちあげ、美味しそうに口を付ける。
 そして、もう何度目とも分からない深いため息をついたテイルが、ポケモン達の仲裁に入る為に口を開こうとし、

「おーおー、もう始まってるじゃねぇか」
「ちょ、ちょっとエメラルド、もうそろそろ下ろして……あ……その……こ、こんにちわ」

 全員が振り返った先に、勝手に入ってきたらしいエメラルドと、彼がお姫様抱っこの状態で抱き上げている女性の姿があった。彼女の黒く長い髪は、身体と共に彼の腕の中にすっぽりと収まっている。服装は抱き上げられているにしては、少しばかり乱れが激しい感じであった。

「あー、エメラルドにワカナさん! こんにちわー!」
「あらあら、ワカナちゃん、エメラルド君に抱っこされて、何かあったの? 服も少し乱れているけど……」

 ぶんぶんと手を振るセイナの隣で、ホウナが首を傾げる。と、ワカナと呼ばれた女性はびくりと身体を震わせ、エメラルドの腕の中であわあわと両手を振る。

「こ、これは、その……こ、転んだの! それで、ちょっと、その時に……あ、足を捻っちゃって……後、足腰にちょっと力が入らなくて……」
「あらまぁそれは大変! 痛くない? 怪我はないかしら?」
「あ、あの、本当、大丈夫ですから! ホウナさん、座ってて平気ですよ!」

 慌てて立ち上がろうとしたホウナに対して、ワカナは手を出してその動きを遮る。と、セイナが不思議そうな表情で首を傾げる。

「でも、何で転んで足腰に力はいらないの??」
「あー、セイナ。転んだことと、足腰に力が入らないのは直接の原因じゃないぞー」
「違う理由?」
「そうだ。足を捻ったのは、俺がワカナのことを押しちまったのが原因で、足腰に力が入らないのは……まぁ、一時間ほど前に大人の事情でちょっとした運動――」

 ガツンッ、という清々しい音が部屋の中に響き渡る。
 よく見れば、テイルが空になったおぼんでエメラルドの頭を強く叩き、腕の中に抱かれていたワカナの肘がエメラルドの鳩尾にしっかりと決まる。
 そのままずるずるとその場に座り込む――とはいえ、意地でもワカナの事は抱きかかえたままの――エメラルド。顔を真っ赤にして肩を震わせるワカナの意味が分からずに、セイナは首を傾げる。

「ワカナさん、大丈夫? もうエメラルド、テイルを怒らせるようなこと言っちゃ駄目だよ! ……――でもテイル、何で怒ったの?」
「気にするな。それより、そろそろ試合始まるんじゃないのか」

 その言葉に、セイナがぱっとテレビに向き直る。様子を伺っていたポケモン達も、これ以上は面白い様子にならないと判断したのか、テレビの方へ顔を向ける。ホウナは、気絶したエメラルドを踏まないように気をつけつつ、そっとワカナの耳元に耳打ちした。

「もしかしてなくても、来るのが遅れたのは、エメラルド君に押し倒されちゃったから?」
「……えと、まぁちょっと違う原因もあるんですけど……もう、馬鹿なんですよ、コイツ……」

 深々とため息をつくワカナに、ホウナはくすくすと面白がっている。
 と、ワカナのすぐ傍のテーブル前に湯気をたたせるティーカップが押し出される。みると、テイルが自分の分として持ってきてたらしい紅茶を差し出していた。

「飲むと良い。リラックス効果のあるものだ」
「え……で、でも、これはテイルさんのじゃ」
「まだ何もいれていないし、口もつけていない。レモンや角砂糖、ミルクはそこにあるから、それを使うと良い。――それと」

 テイルはほんの一瞬だけ、セイナの方に目を向ける。彼女の方はテレビに夢中で、こちらの会話になど耳を傾けているようではない。それを確認したテイルは、ワカナを抱きかかえるエメラルドの腕をさっさと外す。そして、手なれた様子で彼女を抱き上げて、ホウナの横に座らせた。
 いきなりのことに驚いた表情でテイルを見上げた時には、彼はさっさとこちらに背を向け、エメラルドを引っ張りつつ台所の方に引っ込んでしまった。
 ぱちくりと目を瞬かせつつも、ワカナは差し出された紅茶に恐る恐る口を付ける。喉を通して身体の芯が温まっていく感覚に、思わず頬を緩める。

「美味しい……――ホント、エメラルドにはテイルさんみたいな丁寧さ、見習って欲しいわね」
「ふふっ。エメラルド君にはエメラルド君なりの優しさがあると思うわよ。ほら、さっき気絶した時も、ワカナちゃんの事を落とさなかったでしょう?」

 くすくすと笑いながら言うホウナの言葉に、ワカナは小さな母音を漏らす。そして、僅かに頬を赤らめてから、きょろきょろ周囲を見回した後、ついとホウナから目を離して溜息をついた。

「ただの馬鹿ですよ、エメラルドは……――アゼルさんのお仕事を蹴ってまでこうして残ってくれる、ただの馬鹿です」


*****


「そういえば、今回はエメラルド君を連れて来なかったんですね」

 ベンチに戻った先。同僚の中ではまともな部類だと思っている男の言葉に、アゼルは不服そうな表情で溜息をついた。

「アイツの女が熱で倒れたから、それの面倒を見るとかで仕事を放り投げられた。それだけだ」
「あらぁ、ワカナちゃんったらぁ、風邪引いたねぇ。――それにしても、アゼル君って本当に仲間思いだわぁ」

 横からひょっこりと顔を出して、青髪のおかっぱ女性がにこにことした笑みで言う。じろりと、アゼルはその女性をねめつける。

「どういう意味だ、メイミ」
「だってぇ、普通、部下の身内が倒れようがなにしようが、仕事は仕事でしょう? たかが警備の仕事も放り投げるような部下、私なら即刻クビにするものぉ」

 物騒な事をあくまでも平然と、当たり前のように女性――メイミは言い放つ。アゼルの眉間に皺が寄るものの、その口から反論は出てこない。そんな様子を、全身フードの男と黒髪の少年は面白そうな表情でにやにやと観察する。と、

「あ、あのところで…………なんで俺、ここにいないといけないんですか……?」

 緊張で震えていると思しき声の主へ、その場の全員が目を向ける。
 黒髪に黒い瞳のその少年は、すぐ傍の目つきの悪い少年とほぼ瓜二つであった。違いがあるとすれば、目つきの悪い彼の方が背が高く、そのせいで、顔立ちがやや大人びているように見える、ということか。
 少年の怯えた様子を見て頭が冷えたらしいアゼルは肩をすくめて、彼と似た顔をした目つきの悪い方を指差す。

「カオスの主人はお前だろう。手持ちの面倒は主人がみるものだ」
「で、でもカオス一人でも、人間の状態だし、十分問題ない気が……」
「シュウ君。残念ですが、君はレジェンさんの命令がありますので、ここにいて貰わないと困ります。恐らく、異国の地で貴方だけでは、万が一何かあった時に困るということでしょう。貴方は今でも"有名"であること、お忘れなく」
「ううー……分かりましすけど……」
『まぁ後は、お前がいると、このギッスギスな四天王陣営の面倒くさいという矛先を、集中砲火でお前に向けれるからな』
「そこだよね!? 絶対に父さんの狙いって、安全云々じゃなくてそこだよね!?」
「カオス、現実を突きつけてやってどうするんだ」
「ファントムさんまでそんなこと言うんですか!?」

 けらけらと笑う少年――カオスの言葉に、全身フードの男――ファントムが肩をすくめる。それによってフードの隙間からさらりと灰色の髪がこぼれおち、彼は煩わしそうな表情でフードの中に髪をしまう。

「しかしアゼル。ベンチにいる時くらいフードは外していいだろう。というか、仮面外さなければ問題ないだろ」
「万が一があるから却下だ」
「万が一のために、アイツらの家にちゃんと居させただろう」
「…………それでも、万が一のため、だ」

 少しの間迷ったものの、やはり首を横に振るアゼルに、ファントムは溜息をつく。
 それだけのやりとりでベンチが一気に静かになる。誰も喋らず、それぞれが別の方向を向いている状況に、シュウはおろおろとした後、

「と、ところで、アイルズさんは何でアイマスクなんてつけてるんですか?」
『そういえばアイルズ、手前、この面子の中で、この試合に参加することを一番拒否ってたよなー?』

 にやにやとした笑みを浮かべるカオスに、銀のアイマスクの仮面をつけた男――アイルズは、短い金色の髪を困ったように掻きつつそっぽをむく。

「色々と、私にも事情があるのです」
「というかこの試合、仮面を付けてる関係者多すぎよねぇ」

 話す様子のないアイルズの横で、メイミが呆れたようなため息をつく。シュウは改めて周囲を見回してみた。
 確かに、自分達のベンチ側には、ファントムとアイルズの二人が仮面を付けており、相手側――キングダム地方四天王と補欠らしき男も仮面を付けている。そして何より、司会を務めている人間が、どちらも素顔を隠すためにアイマスクをつけている。

「それにしても、何で父さんって、役職とか正体とか全然ばれないんだろう……」
『そりゃお前、レジェンって名前自体が偽名だからだろう』
「え!?」
「息子の貴方に言っていないのは意外ですね」
『言うように言われてたけど俺が言ってないからな』

 首を傾げるアイルズに、カオスがけらけらと笑って見せる。

「な、何で教えてくれなかったのさ!?」
『別に。聞かれた訳じゃねぇしな』
「そんなぁ〜……っていうか、このこと、アゼルとかは」
「当然知ってるに決まってるだろう」
「当たり前よねぇ」
「知らない訳ないだろう」
「うううう……なんで俺だけ父さんのこと知らないんだろう……」

 肩を落として残念がっているシュウの頭を、カオスはけらけら笑いながら撫でてやる。なんだかんだとからかいながらも主人を慰める彼にアゼルは軽く肩をすくめ、話を切りかえるように司会の二人へ目を向けた。

「しかし、レジェンさんはともかく、隣の女性は誰だ? 名前も、どっかで聞いたことがある気はするが……」
「あぁ、ヴィエル様ですね。――彼女は王妃、ヴィエルクレツィア=バッキンガム様です」

 平然と言うアイルズに、協会長を除く全員が彼の方を驚いたような表情で見る。アゼルは一度、未だに元気よくハキハキと説明している司会の女性に目をやり、それからアイルズの方へ顔を向ける。

「王妃だと!? だが、公で見る王妃とは全く雰囲気が違うように見えるが……」
「え、どんな雰囲気なんですか?」

 驚くアゼルにシュウが尋ねると、メイミが懐から何かの書類を取りだす。びっしりと文字が敷き詰められているその紙で、シュウが辛うじて目に付いたのは『キングダム地方詳細レポート』というものであった。

「『王妃:ヴィエルクレツィア=バッキンガム。元は王族の親族であるルアーブル家の長女で、10年ほど前に王家に嫁ぐ。品行方正で非常に大人しくおしとやかな性格』とあるわねぇ。実際、前にパーティに姿を見せた時もぉ、あんな変なテンションじゃなかったわぁ」
「そうだ。なんというか、掴みどころのない女性で……そうだな、相手がその場で望む返答をそっくり返す、そういう人物だ。遠目からでしか伺った事はないが、その時は非常に大人しい女性だったが……」
「何を言っているんだ、お前達は。女なんて言うのは、大抵、猫を被ってる。そこの女なんかが良い例だろう」
『だよなぁ』
「あらぁ、ファントムさんもカオスさんもぉ、試合前から戦闘不能にされたいのかしらぁ」

 協会四天王の紅一点を指出してうんうんと頷くファントムとカオスに、メイミはにこやかな笑みを返す。一触即発になりかねなくなる前に、アイルズは一度大きく咳き込んでから溜息をつく。

「雰囲気が違うのは、彼女がわざとそうしているからです。王妃として"公務"に励む時は『ヴィエルクレツィア』という名前で大人しい女性を、自身の"趣味"で動く時には『ヴィエル』という名前を使います。――まぁ、公の場で尋ねられた時は『王妃とは遠縁で、たまたま顔が似通っている』と言っているらしいですけどね」
「へぇ〜。アイルズさん、詳しいんですね」

 関心するシュウに、アイルズは「ええ、まぁ」と曖昧な返事でそっぽを向いてしまう。理由が分からずに首を傾げるシュウに、他の四天王や補欠が肩をすくめ、

「――ちなみに、今回の企画は彼女とレジェンの提案だ。まぁ、レジェンが向こうに提案したのだがな」

 ぼそりと、下手すれば聞き逃してしまいそうな低い声だが、何故だか彼の言葉は大体きちんと聞こえる。茶色の長い髪はいつも無造作にされているが、決して整っていないわけではない。紅色の瞳を手にしていた本に向けたまま、その男――協会長のクールは、全員の視線を受けて平然と肩をすくめた。

「最近、どちらの地方でも四天王が『公式戦』を見せていなかったので、本当に実力があるのか、ということを今一度確認してもらう意味で、この交流試合が組まれたのだ。向こうの思惑は詳しく聞いていないが、こちらとしても、協会四天王の力量がいかほどのものか、こういった試合で見せることによって、外部からの信頼を得ようと言うわけだ」
「なるほど。俺やメイミは"公式戦"に顔を出すことはまずないからな」
「いつもアゼル君が圧勝しちゃうものねぇ」
「別に、四天王が負けないのは良いことだろ。しかし、あの人もちゃんと考えて企画しているんですね」

 ファントムとメイミの言葉にやや不服そうに鼻を鳴らすアゼルに苦笑しつつ、シュウは、自分の父親の友人である協会長を振り見仰ぎ、尋ねた。

「ちなみに、あの、クールさん。その…………父さんが司会や実況してしかも仮面つけてるのって、何か意味があっての行動なんですか?」

 協会長の答えは即答だった。

「いや、あれはただの『悪ふざけ』だ」



「しっかし、今回の交流試合は仮面つけている奴が多すぎだろ」

 チームのベンチに戻ったオーディンは、腰かけるなり深々とため息をつき、改めて周囲を見渡した。仮面を付けているのは、自分のベンチ側に同僚四天王と補欠の二人、相手側のベンチの四天王が二人、そして、司会兼実況者の二人の、計六名である。普段から傍で見慣れている人物が仮面を付けているのは違和感ないが、補欠の彼――オーディン自身は詳しく知らないが、確かロキの補佐であるトールという名前の男だったか――が仮面を付けているのは違和感があった。

「ディン、仮面じゃなくてアイマスクっていうんだぜ!」
「顔を隠すんだから、仮面もアイマスクも一緒だろ」

 元気一杯且つ自信満々に発言するフォルの言葉に、オーディンは既に疲れきった声で返した。普段から白い仮面で顔の右半分を覆うロキは、やや意外そうな表情でオーディンの顔を伺う。

「ところで隊長、試合前なのに既にぐったり疲れ切っていますね〜」
「ったり前だろ……司会がアイツの時点で、俺が後始末しないといけないんだろうが……」
「えー、何の後始末するんだ?」
「そんなの決まってるだろ。ヴィエルがしでかす…………あ?」

 不思議そうに首を傾げるフォルの言葉に、オーディンは何かを言おうとして、ふと、自分の口からそれ以上の言葉が出てこないことに気づく。眉間にしわを寄せて目元をぐりぐりと擦るが、思ったような言葉が出てこない。「あー」とも「うー」とも呻くような声を漏らしてから、オーディンはフォルに向き直り、

「とにかく、ヴィエルが企画した時点で碌でもないことで」
「ちなみにこの企画、ヴィエルというよりは、今現在司会をしている"彼"からの提案だったらしいぞ」

 声を発したのは、どこからか取りだしたらしいパンフレットに目を落としていた国王だった。顔を上げて当然のように言う彼に、オーディンは訝しげな表情をする。

「彼?」
「レジェン、と名乗った彼ですね。あれでポケモン協会副会長の一人、ですか」
「あれが副会長!?」
「副会長って偉いのか?」

 驚くオーディンの隣で、フォルが好奇心いっぱいに目を見開いてロキの方を見る。こくりと、紳士服の得体の知れなさそうな男は頷いた。

「ポケモン協会は、このキングダム地方における騎士団の役割と、王族や貴族達の行う政治制度の一部を担う機関です。上層部の構成は、理事会など外部機関も幾つか入ってきますが……ポケモン協会副会長は二人いて、今回来ているのはその内の一人です。地位は上から二番目ですが、そうですねぇ……騎士団に例えるなら、大体、私の地位と同じくらいでしょう」
「うーん、ロキくらいの地位だったらそんなに凄くないのかな?」
「フォル、ロキの地位ってかなり凄いのよ。貴族にも意見が出来る位置なんだから」

 真剣な表情で悩むフォルに、キングダム地方四天王の紅一点、フレイヤが苦笑しながら答える。彼女の恰好は、貴族女性の正装という感じの綺麗に整ったドレス姿だった。金色の長い髪から落ちそうになっていた蝶のアクセサリーをつけなおして、彼女は会場の方へ目をやる。

「それにしても、色々な人が来てるわね。一般客も多いけど、他地方のジムリーダーとかも来てるなんて……しかもテレビに映るんでしょう? 私、こんな恰好で大丈夫かしら……」
「妹馬鹿のヴィエルが、妹のお前の化粧を念入りにしてただろうが。自信持っとけ。――大体、俺としてはそのままのお前でも、十分いいと思うけどな」

 ぽんっ、と彼女の頭を軽く叩いてオーディンが呟く。一瞬、フレイヤの顔が赤くなるが、くすくすと可笑しそうに笑って、彼女は彼を見上げる。

「ありがと、ディン。ふふふっ、お世辞でも嬉しいわ」
「言っとくが、俺はお前に世辞なんてものはつかわないぞ」
「はいはい。隊長がメイド長にデレデレするのは試合後にして下さいね」
「おい、俺は別にそういうつもりで……!」
「なぁー。何でトールは、今日だけアイマスクつけてるんだ?」

 すぐ傍のいざこざに興味をなくしたフォルは、自分の横で騒ぎに巻き込まれないように距離を置こうとしていた――よく見ればわざわざ隣に座ってきたらしい国王から、距離をあけるために立ち上がろうとしてきたとも見える――トールに声をかける。
 声をかけられ、ぎくりとして、その茶髪の男は肩をすくめた。と、つけ慣れていない銀の仮面がずれ落ちかけて、慌ててつけ直しながら、彼はフォルのほうに向きなおる。

「言っただろう。俺は悪目立ちしたくないんだ」
「仮面つけてる方が悪目立ちすると思いますけどねぇ」
「それはお前が言う台詞じゃねーだろ……」

 やれやれと肩をすくめるロキに、オーディンがぼそっと呟く。フォルはうーんと少し唸った後、

「じゃあ、何で騎士の格好なんだ?」
「…………ヴィエル様に仮面をお借りした時に、条件で着るように言われた。まぁ、普段とは違う格好の方が、誰だか分かりにくいからいいと思うしな」

 その呟きに、オーディンはやや意外な表情でトールをまじまじと見つめる。
 騎士の恰好と言っても、決して重い鎧を身に纏ったりするものではない。金の縁取りの白いコート、白い手袋に金の刺繍が入った上下、白のブーツなど、白一色といったものだ。それが決して耐久性のある服ではないことを、オーディンは知っている。
 そもそも、騎士の格好というのは、通常でお目にかかる事はまず少ない。というのも、キングダム地方内で『主に命をささげる護衛者』という名目の『騎士制度』自体が廃れつつあるからだ。貴族自身が身を守るには、現在ならば強力なポケモンが一匹手元にあるだけでいい。また、護衛者を雇ったとしても、生涯主に使え、命すらも投げするなどと言う"時代錯誤"の考え方自体が、現代に存在しにくいもの、と言ってもいいかもしれない。

「……――やっぱ、普通は白なんだろうな」
「どうしました、隊長?」
「なんでもねぇよ。というかフォル、お前、よく『騎士の恰好』なんて知ってるな。あまり見る機会ないだろ」

 ロキの話を軽く聞き流して尋ねると、フォルは再び首を横に傾けた。

「何となく?」
「隊長が着た事あるからじゃないですか?」
「俺は近年着てないぞ、あんな非効率的な騎士服なんて」
「ですが、フォルの近場で騎士である人物なんて、隊長しかいないじゃないですか」
「お前、最近、騎士の話でやけに俺に突っ掛かってきてないか?」
「いえいえ。『騎士』などという称号を持つ方は珍しいですから、後世への勉強のためにですね――」

 そのまま、ロキとオーディンの他愛のやり取りは続く。
 と、いつの間にかトールが立ちあがり、フォルのすぐ目の前までやってくる。そして、その場にしゃがみ込むとアイマスクを外して、同じ目線になったフォルを見つめる。

「何か、気づいたことはあるか?」

 問われて、フォルは真正面からトールを見つめた。トールの金色の瞳をフォルの"紅い"瞳がじっと見つめ返す。やがて、

「うーん、やっぱ分かんないや」
「もしかしたら本で見たんじゃないか? この間『騎士と姫』とかいう本を読んでいただろ、お前」

 "金色"の瞳を数度瞬いて首を傾げるフォルに、トールがそんなことを言う。「おぉ、それかも!」とポンと両手を打った彼は、再び仮面をつけ直したその男を、尊敬の眼差しで見上げる。

「良かったですね、トール。フォルに感激してもらって」
「何となく馬鹿にされているような響きに聞こえるのですが、ロキ参謀長官」

 半眼で自分の上司を睨むが、どこ吹く風と言った様子でロキはくすりと笑う。と、観客の歓声が一段と大きくなり、その音に乗って、司会を務めるキングダム地方の"一般女性"の掛け声が響き渡った。

『――さぁて、そろそろ第一試合、協会四天王アゼルvsキングダム地方四天王スフォルツァンドの試合開始よ!』




 第一試合。
 フィールドにあがったアゼルは、ボールから二体の黒猫――マニューラを繰り出した対戦相手の少年をじっと眺めた。
 茶色の髪に金色の瞳、服装は白を基調とした格子柄の模様の入った長袖と黒いズボンで、身体にしっかりとフィットしている。エリートトレーナーの恰好を少し改造したようなものと伺える。距離がある為に詳しくは分からないが、身長は大体同じくらいだろうか。

(確か資料によれば、僕よりも2つほど年下だったな)

 少年は落ち着かない様子で周囲をきょろきょろと見渡しては、酷く感心した様子で闘技場を見回している。そこから分かるのは、彼がとても好奇心旺盛な様子が伺えるということ――悪く言えば非常に子供っぽいのが分かる。

(雰囲気からして子供っぽい感じはするが……本当に四天王なのか?)

 半信半疑といった表情でアゼルが眺めていると、少年はこちらの視線に気づき、そして大きく手を振ってきた。

「おぉ、お前が俺との対戦相手なのか!」
「そうだが……」
「俺はスフォルツァンド! えーと、アゼル、だっけか? へへっ、今日は対戦よろしくな!」

 元気よく片腕を上げてそう名乗る少年に、アゼルはますます面倒そうな表情をする。それから自チームのベンチへ振り返り、

「棄権していいか? 僕は普段から試合をしているから、実力は分かり切ってるだろう」
「初戦で白星の方が幸先いと思いますけど?」
「えー。アゼル君が棄権したらぁ、私が棄権出来ないから嫌だわぁ」

 アイマスクの下につけたメガネを持ちあげて当然のように言うアイルズ、にこにことした笑みでさらりと自身も棄権の予定を述べるメイミ。ベンチの奥に座っているファントムは何も言わず、一見すれば目を瞑って黙想しているように見える。が、確実に試合を見る気が失せて寝ているだろうとアゼルは思った。

「あ、アゼルさん! 流石に最初から棄権するのは……っていうか、メイミさんも棄権の意思とか、貴方達、協会の信頼をがた落ちさせる気ですか!?」
『いいんじゃね? どーせ、こいつらの場合、仕事出来りゃそれで良いだろ〜みたいな感じだし。なにより……――対戦相手のガキんちょ、弱そうだもんなー』

 大慌てするシュウの隣では、最後の方を確実に相手の少年――スフォルツァンドと名乗った彼に聞こえる様に、カオスがやや大きめの声で嘲笑う。すると、スフォルツァンドがむっとした表情をすると、アゼル――ではなくカオスの方をびしっと指差す。

「弱そうとか勝手に言うんじゃねぇ! なんだったら、先にお前とバトルしてやるぜ!」
「おいフォル! 無駄な喧嘩を買うな! っていうか、お前はまず先に、現在の対戦相手から舐められている事を察しろー!!」
「隊長、最初からテンション高いですね〜」

 キングダム地方のベンチから、金髪の男が大声でスフォルツァンドを叱り飛ばす。その横では、得体のしれない顔の右半分を仮面で覆った男がにこにことした表情でこちらを見つめている。
 スフォルツァンドはこちらを金色の瞳で見返した。それから首を傾げて、

「え? お前が俺とバトルしたくないのって、単に体調悪いからとかじゃないのか? それなら無理しなくでいいぞ」

 アゼルは小さくため息をついた。こちらの嫌味に気付かない上にスルーするのは、どこかの知り合いの小娘を思い出した。彼女の場合は、嫌味に気付かない代わりに、妙な所に気づくような娘だったが。

「別に体調が悪いわけじゃない。貴様を倒したところで、大した実力を見せれそうにもないから無駄だと思ったんだ。キングダム地方の四天王っていうのは、全員が弱い奴で構成されているのか?」

 その言葉には流石に効き目があったらしい。少年の表情が目に見えてはっきりと強張り、両手が強く握りしめられる。声を荒げることはないが敵意を表す視線を相手が向けてきたことに、アゼルがもう一度溜息をつく。と、その空気を読んだらしい司会の女性の声が、元気よく会場内に響き渡る。

『さぁて、良い感じで対戦者同士が燃え上がってきたところで、一回戦目の試合形式とフィールドを決めていくわよ!』

 瞬間、闘技場内にある大型スクリーンに、二つのルーレットが映し出される。一つは、シングル・ダブル・トリプルの戦闘形式をきめると思しきルーレットが、もう一つは、フィールドを草・氷・水・炎・岩の5つのうちのどれかに絞るルーレットだ。
 ポチッ、という典型的な効果音と共に、二つのルーレットの光が回り出す。やがて光の動きが緩慢になり、それぞれのルーレットが、第一試合のルールを決定する。

『決まったようだねぇ。第一試合、戦闘形式は"ダブルバトル"、使用ポケモンは四体になるよ。そしてフィールドは"草"のフィールド。あ、"草"のフィールドには天候指定がないから、本当に普通の試合だね』

 司会のレジェンののんびりとした声。次の瞬間、地面が大きく揺れたかと思うと、目の前のフィールドが真っ二つに割れる。そして、開いた空間から新しいフィールドが―――― 一面が草に覆われたフィールドが上がってきた。そうして、先程まではただ平坦だったはずの対戦場所は、下から持ちあがってきた草のフィールドへと早変わりしたのだった。
 観客の歓声が一斉に会場をみたす。それは、アゼルがバトル会場に出れば常に立たされる環境であり、もはや慣れていて当然の場所だ。
 だが目の前の少年は、その歓声に慣れていないのか、先程のようにびっくりして周囲をきょろきょろと見渡している。その行動は、とても対戦慣れしているようには思えない。と、彼がボールから出していたらしい二体のマニューラが、主人である彼の腕をぐいぐいと引っ張り、こちらを指差す。
 それに気付いた少年は、僅かにむっとした表情をしたが、すぐに、くくくっと笑いだして肩を震わせる。アゼルは訝しげな目を向けた。

「何が可笑しい」
「いやさ、なんか無性にぞくぞくするっていうか……お前、強いんだろう?」

 先程までは子供っぽい雰囲気だったはずの少年の瞳は、いつの間にか、酷くまっすぐで熱い視線になっていた。それは、今まで四天王としてチャレンジャーを相手にするたびに受けていた視線で――だがどこか、それ以上の熱を、強く堅い"意志"を感じるものだ。
 自然、アゼルの背筋が僅かに伸びる。我知らず止めていた息を吐き出し、彼はボールからポケモンを繰り出す。草のフィールドに降り立ったのは、二体の大型ポケモンだった。一匹目は、紅蓮色に黒の模様が交じった毛皮の犬ポケモン。身体のあちこちを白く見えるふさふさの体毛に覆われている。もう一匹は大きなトゲつき甲羅を持つ、ヒレの様な四足を持つ水棲竜のポケモン。小さな耳がぴくぴくと動し、長い首を緩やかに振る。
 ボールから出てきて個々で雄たけびをあげるウインディとラプラスの姿に、少年はやや驚いた表情をする。しかし、それも一瞬のことで、既に彼の前には、先程ボールから出した二体のマニューラが、戦闘態勢を整えていた。相手を威嚇するように片方のマニューラが声を張り上げる。
 アゼルはスフォルツァンドを見つめかえした。既に目の前の少年は、戦闘を始めるための"心構え"が出来ていた。

「もういいのか?」
「それは俺の台詞だけど?」
「僕は問題ない。どこからでもかかって来い」

挑発的に鼻を鳴らすと、彼はうずうずとした興奮を抑えることなく、片腕を空へつき上げた。

「……――よっしゃあ、バトルしようぜ!」
『ってなわけで、第一試合、始めー!!!』


【第一試合】モノクロ地方協会四天王 アゼル vs キングダム地方四天王 スフォルツァンド in ダブルバトル/草フィールド




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