別に俺は過保護であるつもりはない。
甘やかさないようにとトラブルには巻き込んでいるし、恐らくアイツよりもトレーナーとしてのレベルが異常に高い相手にも喧嘩を売ってきた。
そのたびに、アイツにはトレーナーのすごさを感じさせているし、別に身の危険を冒しているわけではない。

もう一度言う。俺は決して、過保護ではない。そのつもりだ。



 

「カオス、お前は過保護だねぇ」

そう言った男の首根っこを、俺は無意識のうちに掴んでいた。じろっと睨みつけたが、奴は相変わらずの軽い表情で肩を竦めやがる。

「だってそうじゃないか。シュウのことについて、お前は甘いよ。バトルでも、日常生活でも」
「どういう意味だ、レジェン」
「つまり、お前はもう少しシュウから離れたほうがいいんじゃないかな、って話さ」

ずずーっとわざとらしいくらいすがすがしくコーヒーをすするこいつは、自分の息子が大切ではなかったのか。

「お前、息子は大事なんじゃないのか?」
「そりゃあ、大事だよ。僕は確かに協会の仕事で忙しくてあの子を放っておいてしまっているけど、もしも家にいるなら、ものすっごく甘やかす自信はある! 可愛がって愛でまくって……というか僕自身としては家に縛り付けておきたいくらいさ!」

力強く宣言するこの父親は頭がいかれたのかもしれない。俺に注意した内容とまるっきり正反対のことを言いやがる。と言ったのもつかの間、奴は苦笑して首を横に振る。

「でもね、それはお前がやってくれている、カオス。ならば僕は、もしも君と僕の立場が逆であったならば、君が言うであろう一言を――つまり、シュウを少しは見守る程度に、その過保護具合を何とかしたほうがいい、と。まぁそういうことを言うわけだよ」
「はぁ。……つっても、俺、別にアイツを甘やかしているつもりはないぜ?」

基本的にトラブルに巻き込み、やつよりも強いトレーナーには常に喧嘩を売っている。そのたびに、アイツはトラブルに対する処理の仕方を学ぶし、強いトレーナーの戦略などを学んでいる。これはアイツを旅に連れて行って気づいたのだが、シュウという人間は意外に勉強熱心だ。
暇があればバトルに関する参考書を見ているし、時間があればそれなりにバトルはしている。トラブルは嫌いだと言っているが、なんだかんだいってもお人よしの性格は治っていないし、強く頼まれたことにはノーと言えない馬鹿だ。
シュウの父親であるレジェンは、俺の問いににやりと笑った。

「ふふっ、やっぱりお前は過保護だねぇ」
「だからどこだだよ」
「全体的に、だね。普通に過保護でないなら『別に離れてもいいぜー』って言わないと駄目だぞカオス!」

びしっと指を突き付けてくるこの親父をどうにかして欲しい。半眼で見つめていると、レジェンは小さく咳ばらいをした。

「とにかく、お前は少し、シュウと離れる期間を設けるべきだね」
「へぇ。で、どんくらい?」
「うーん、そうだなぁ…………まぁあまり離してしまうと、もし万が一があった時にお前が対処できなくても困るから、そうだなー……うーん」

一人ぶつくさ言いながら悩むレジェンから目を離して、俺は傍に置いていた酒瓶を口の中に流し込む。その間に、色々と考えてみた。
もしかしたら(万に一つの可能性があったとして)俺はシュウに甘いのかもしれない。アイツが危ない目に合えば助けに行くし、何かあれば駆けつけるのは日常茶飯事だ。
昔だったら、正直なことを言えば、俺はあいつを家の外に出したくはなかった。家の中であればアイツは確実にオレの目の届く範囲だし、何か問題が起こるとは到底思えない。……まぁ流石に軟禁するのは趣味じゃないから外に出しているうちに、シュウ自身が旅に出たいと言い出したわけだが。

(俺は、シュウに甘いのか?)

自問自答してみるが、答えが出てくるとは思わない。俺はやっぱり、甘やかしているつもりはないからだ。
主人の心配をするのが、ポケモンの役目だと思っているから。

「カオス」

呼ばれて振り返ると、にこにことしたレジェンの顔があった。胡散臭そうに見つめる中、彼は俺にポケギアを見せてきた。

「ちょっと面白いイベントがあってね。それで……この問題の解決、シュウにやらせるのはどうかな? あの子だったら、何とかなると思うんだよね」

一瞬、『俺も面白そうだからついていく』と言いそうになった一言を飲み込む。ほとんど咄嗟だが、よく考えれば、こういった言動すらも、アイツを心配して出てくるものだ。
シュウ一人で大丈夫なのか? 知らない土地で、知らないポケモン達に、知らない輩ばかり。それで更に面倒くさそうな組織とかかわる可能性があると言われると、俺なりに、何か言い知れぬ恐怖を感じる。
が、先ほど、レジェンに言われた言葉が、俺の口から出かかっていた言葉を喉の奥に飲み込ませた。代わりに俺は息を吐き出した。

「あぁ。いいんじゃねぇの?」

先ほどまで旨かったはずの酒の味が何となく苦いものになったような気がしつつ、俺は首を縦に振った。


口から出たなんたら


(「えっ、い、いきなりなんでイッシュ地方とかに行けっていうのさ!」
 うるせぇ。レジェンに言っちまったんだからしかたねぇんだ。お前の動向は気になるけど……とにかく行って来い、馬鹿マスター!!!)

111001/勢いで過保護じゃないと否定しちゃったもんだから離れ離れに。カオスさんは心配だけどとりあえず言い出しっぺの法則で送り出します。その後、確かにマスターである少年は成長するんだけどねぇー……。