お借りした方:水方さん宅より エイリ君&カタリ君


学園都市に到着したオーディンは、ふと、暗がりの中に見えた人物の顔を認識するなり、声を上げた。

「おーい、エイリ!」

声をかけられた黒髪の青年は、どこか気まずそうにギクリと肩を震わせて振り返った。ほんの僅か苦々しそうに歪んだ顔は、しかしオーディンを見るなり、最初とは別の意味で面倒くさそうな表情になっている。近寄ってみると、彼は呆れたように息をつく。

「なんだ、オッサンかよ」
「だから、俺をオッサン呼ばわりするなって言っただろうが」
「オッサンをオッサンって何が問題だよ。10も年が離れてるんだからな」

にやにやと口元に笑みをたたえる青年――エイリに、オーディンがやや納得のいかない表情で肩をすくめる。

「そういうお前は、こんなところで何やってるんだ」

辺りはもう明るいと言えない時間であり、周囲は街灯を残して薄暗い闇に包まれている。その中で、オーディンがエイリの姿を見つけられたのは本当に偶然だ。僅かな明かりの中で見えた青年の顔に見覚えがあったから、オーディンは声をかけた。問うと――――彼は先ほど以上に不機嫌を露わにした表情になる。

「悪いかよ。ただの散歩だ」
「なるほど」

語尾が探るようなトーンになるオーディンを、エイリは不快な物を見る様な目で睨む。その視線を受けても気にすることなく、彼は考え込むように顎に手を当てて、

「なぁエイリ」
「何だよ」
「悪いが、お前の家まで案内してくれないか」

エイリの視線がますます鋭くなる。疑わしいものを見る青年の前で、オーディンは懐から一通の封筒を取り出して見せた。

「カタリに渡す物があってな。案内してくれないか」
「ここ行ってあっち曲がればすぐだ」
「全体的に暗くて、かつ、街に詳しくない人間に、その大雑把な説明は通じないぞ」

あまり乗り気でないエイリの説明に、彼の肩を叩いたオーディンは困ったように笑った。

「俺に無理やり連れてこられた、とかなんでもいい。カタリには俺から謝る。お前には……あー、今度奢ってやるから、それで勘弁してくれ」

暫くの間、エイリは無言で顔を伏せていた。暗がりの中、影によって顔の見えない彼を、オーディンは無言で見つめたまま、ぽんぽんと肩を叩いてやる。やがて、

「……――約束、守れよ」
「分かってる。悪いな、散歩の時間を邪魔して」

金色の髪をがりがりと掻きながら笑うオーディンを見つめるエイリは、先ほどまでよりは幾分柔らかな表情でため息交じりにそう言った。



扉を開く音に慌てて部屋を飛び出てきたカタリは、玄関先の人物を見るなり素っ頓狂な声を出した。

「エイリ! っと、オーディンさん!?」
「夜遅くに悪いな」

借りてきた猫よろしくで黙っているエイリの隣、オーディンは軽く手を挙げてみせた。色々言い出しそうなカタリが口を開く前に、オーディンは自分を道案内した青年の肩を叩いた。

「渡す物があるんでね。場所が分からないから、頼んで連れてきてもらった」
「ふんっ」

オーディンの礼の様な言葉に、エイリが鼻を鳴らして背を向ける。その様子に、やはり何か言いだそうとカタリが彼らに近づいたところで――――わしゃわしゃ、と頭を撫でると、カタリが驚きと共に顔を上げる。一方でオーディンは素知らぬ顔でカタリから手を放し、懐から一通の封筒を取り出して見せる。

「悪いな。俺がこの街に詳しくないから、ちょっとエイリを連れまわしちまったんだ。カタリ、お前には心配させただろうから、これで二人でなんか食べてくれ。――ってことで、エイリ、次に奢れるタイミング分からないから、それでチャラにしてくれよ」
「そりゃ構わないけど……オッサン、コイツに渡す物あったんじゃないのかよ」
「今渡したやつだからいいんだよ。後、オッサンって言うな」

苦笑気味のオーディンがエイリの髪を掻き撫でる様にいじる。逃げるように肩をすくめる彼の頭から手を放すと、オーディンはさっさと身をひるがえす。

「あ、あの、オーディンさん!」
「まぁ用件はそんだけだ。エイリ、今度は会ったときに挨拶くらいはしてくれよ」
「…………考えとく」

むすっとした表情の彼にやれやれと肩をすくめたオーディンは、さっさと出て行ってしまう。結局、その場には家の主である二人の青年が残されることとなった。
暫くの間。二人は黙りこくったまま、一方はお札が入ってるのが見える封筒を握って下を向いており、もう一方は所在無さ気に体を横に向けたまま斜に構えた様子で玄関に突っ立っている。
やがて――――封筒を手にしていたカタリが顔を上げる。呆れたようなため息をつきつつ、肩をすくめると、玄関に立つ彼に手を差し出した。

「……――お帰り」
「……おう」

差し出された手を掴んで、エイリはやはり視線を少しだけそらして、呟きと共に首を縦に振った。


帰る場所のあること


(「ディン、お帰りなさい」
 「あぁ、ただいま、フレイヤ。――そういや、この間話していたエイリとカタリっていう二人にあったんだけどな」
 ちょっとした出張の度になんだか楽しそうに出来事を語る彼が好きで、彼女は楽しそうに言葉の続きを待った。)
111210/本日は水方おりえちゃん宅の超&悪コンビのカタリ君&エイリ君をお借りしました!
おりえちゃんの語った中でカタリ君が「お帰り」と言うのがすっごく印象に残りつつ実は語り始まる前に地元会なるもので会話をした時から気になった結果書きだしてました楽しかった!!!
ってことで、うちのオーディンなんぞが仲良くさせて頂いてるのですが、奴的には変に突っつくよりも当人たちで解決したほうがいいだろうなーということで、とりあえずは自分の案内を理由に連れて帰ってきたようです(何)
それなりに遅い時間なのに一人歩きで、しかも声かけたときにビビッていたってことは何かあったかー?的なことは思って、自分を介すれば、互いにどっちも仲直りのきっかけは出来るかねぇ〜という感じで。
改めまして、本日は地元会などお付き合いしていただきましてありがとうございますー!(深々)

追記→お二方側からの視点話を頂きました!!!